新型コロナワクチンの接種が始まった2021年から3年間厚生労働省は接種率向上を目指してメディアや医療系インフルエンサーなどの協力を得て「世論形成」を図るプロジェクトを大手PR会社と実施した。その実施内容の報告書の公開を求めたところ厚労省はこのほどほぼ全面的に不開示とする決定をした。調査報道やファクトチェックに取り組むNPOメディア「InFact」が情報公開請求で入手した資料を4月22日サイト上で公開した

このプロジェクトでは、マスメディアを政府広報の手段と位置付け、勉強会などを通じ、正しい情報を報道してもらうための広報支援を行うとされていた。同時にメディアの報道やSNS投稿をモニタリング(監視)し「非科学的」とみなされる報道が見つかればメディアに申入れをすることも含め「誤情報等の対処」も行うとされていた。いずれも契約に基づく仕様書で明記されていることだが、厚労省はサイトやSNSで発信した公開情報以外に国民の目にみえないところで実際に何をしていたのかを一切明らかにしていない。

不開示理由は「事業の遂行に支障を及ぼす」

筆者の取材で、厚労省が委託した業者から提出を受けた実施報告書は、2021年2月から2023年9月までの分で合計2782頁に上ることを確認した

筆者の開示請求では報告書の表紙など200頁あまりが開示されたが大半が黒塗りで実質不開示だった。残る約2500頁は全部不開示となった。不開示とした理由について厚労省は筆者への通知書で「新型コロナワクチンの接種を安心して受けられるよう国民の理解と信頼が求められる状況において正確な情報を丁寧に伝えるための広報に関する情報が各所に含まれていることから公にすることにより、本事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」と説明している。ただInFactへの通知書では「当該ワクチンの接種事業に批判的な人々も少なからず存在する中、これを公にするとこれら批判的な人々により科学的に根拠のない不正確な情報が拡散されたり厚生労働省の事務に対する妨害行為が行われたりする懸念がありその結果、国民が接種を受けるかどうか適切に判断する環境が損なわれワクチン忌避の風潮が広まるなど、本事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」と説明していた

だが事業の存在自体は隠すことができず、その実施内容を公開しないことでかえって誤解や無用な批判を招く恐れもありほぼ全面的に情報公開を拒む理由としては疑問が残る。(注)筆者の目的は国民に説明すべき事実を明らかにして問題がなかったかどうか冷静に検証することにあります。誹謗中傷や業務妨害は当然ながら許されることではなく誰に対してであれ、過度な攻撃や誹謗中傷の類は厳に慎んでいただくようお願いします。

大手PR会社と密接に連携実施内容は不透明

厚労省の広報プロジェクトは2回目の緊急事態宣言が出されている最中、医療従事者に対する先行接種の開始前日にあたる2021年2月16日大手PR会社であるプラップジャパンとの間で最初の随意契約を締結してスタートした。2022年4月以後は電通PRコンサルティングが一般競争入札で受注した。無料の特例臨時接種が行われていた2024年3月までに大手PR会社に支払われた契約金額は合計すると約3億7000万円だった。InFactが入手した資料によると厚労省は大手PR会社に丸投げしていたのではなく省内に専任スタッフを常駐させ、同省の指示や協議を踏まえて実施するものとされていた。その中には「医療系インフルエンサー」を選定してアドバイザリー契約を結ぶことも含まれていた(詳しくはニュースレターで解説予定)https://yanai.theletter.jp/


大手PR会社や民間人と連携しているが国費を投じて行われたこの広報プロジェクトの実施主体はあくまで厚労省であったことがわかる。業務終了後の検査で「契約どおり相違ない」と確認した調書はあるが実際にメディアへの申し入れ等を行っていたかどうかは一切わかっていない。ただ厚労省がSNS上で具体的に誤情報を指摘して打ち消す「官製ファクトチェック」を事実上行っていたことも確認されている。現在政府が主体となって行う「偽・誤情報対策」は明文の法的根拠はないが、コロナ禍の緊急事態宣言下で事実上行われていたことになるこのワクチン広報プロジェクトは無料接種事業を終了した現在も継続しているが、中身は不明だ。

政府は近く閣議決定で、特措法に基づく「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を改定し、平時から「偽・誤情報」の監視や事業者への対処を行う方針を示している。

国の情報発信のあり方 検証の動きは広がるか

国民の間で意見の分かれるテーマについて政府が情報発信し政府が「言論者」として現れる場合は一般個人の「表現の自由」の保障の問題ではなくいわゆる「政府言論」の問題とされ、法的あるいは政治的な統制が必要との見解が複数の憲法学者から示されている(参考=人事院勉強会における曽我部真裕京都大教授のレジュメ

https://www.jinji.go.jp/content/900029541.pdf 


コロナワクチンの特例臨時接種の事業は今年3月末で終了したことを受け検証する動きも徐々に出てきている。先週には接種勧奨のためあらゆるメディアを使って広報した一方マイナスの情報は周知されず被害を広げたとしてワクチン接種による健康被害と認定を受けた死亡者遺族らが国の情報発信のあり方を争点にした集団訴訟を提起。一部メディアが詳しく報じた

余ったワクチンは有効期限が残っていても全部廃棄となり、運搬や保管、処分の経費をいれず、購入額ベースで単純計算しただけでも約6600億円相当のワクチンが廃棄されたことも報道された

ただ、当時は、全ての政党とメディアの全面的な支持により進められた経緯がある。現時点で、健康被害救済制度に基づく被害認定は過去のワクチンで最も多い7千人以上(うち、死亡認定561人)に上っているが厚労省資料)ほとんど報道されていない。国会でも一部の議員が取り上げるのみにとどまっている。今後、情報公開や検証作業が進むかどうかかは、予断を許さない状況だ。(注記)この問題の詳しい分析・解説は筆者のニュースレターで継続的に配信する予定です。なお、筆者は弁護士ですが、取材執筆活動の独立性を維持するため、コロナワクチンに関係する依頼案件は一切受けないことにしており、職務上いかなる利害関係もありません。また、かつてNPOメディア「InFact」共同編集長を務めていましたが、3年前に離職しており、現在は所属しておらず、利害関係もありません。


https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001250072.pdf