何でもかんでも隠し通そうとする。私のアマゾンでのアルバイトの最終勤務日が終わった後の夕刻平塚駅前の個室居酒屋で西川正明(仮名)に会った。アマゾンの小田原物流センターが稼働したときから働いている古参社員だった。席に着くとまず西川の社員証を見せてもらった。アマゾンの正社員であることを表すブルーバッジに、顔写真が貼ってあり名前が記してあった。私を含めたアルバイトのバッジが緑色であるのに対しアマゾンの正社員はブルーバッジとなる。アマゾンの正社員がブルーバッジをつけるのは世界共通だ。私は最初にどうして週刊誌の情報提供サイトにアマゾンを告発するメッセージを送ったのか尋ねた。メッセージはA4用紙で4枚分あった。アマゾンという会社はどこもかしこも秘密主義で貫かれており、こうした内部告発をする社員は皆無に等しいことをこれまでの取材で骨身にしみて知っていたからだ。西川は一気にこう答えた。「ボクはアマゾンが自分たちに都合の悪いことは何でもかんでも隠し通そうとする姿勢に嫌気がさしたんです。小田原では作業中に亡くなった人を何人も知っています。けれど亡くなった翌日に花瓶に入れた花を飾るだけでワーカーさんには何も説明しないんです
ボクが死亡事故の後で、ワーカーさんにもちゃんと説明した方がいいんじゃないですかと社内で言ってもみんなに話してもたいして意味がないからといったわけのわからない理屈をつけて、説明することから逃げたことがありました。また自分たちがセンター運営に関する大きなミスをしてワーカーさんに迷惑をかけてもそれを謝るわけでもなくひたすらごまかそうとします。さらに社員間やワーカーさんに対するセクハラやパワハラもあります。アマゾンの秘密主義のためこうした話が、マスコミで報道されることなくネットの2ちゃん(現在の5ちゃんねる)ですらほとんど見つけることができません。果たしてこれでいいのかボクたちは日々ワーカーさんの信頼を失っているんじゃないのかと悶々としながら働いているんです」
話している間でも、居酒屋の店員が引き戸を開けて注文を取りにくるたび西川がピタリと口を閉じる。誰かに聞かれるかもしれないという警戒心を感じた。西川が確実に知っている範囲でも小田原の物流センターの立ち上げの直後の13年から16年にかけて3人死亡したという。いずれも夜勤の男性で、1人はピック作業中に倒れ20~30分間動かないでいたところを発見されたが亡くなった。もう1人は夜勤明けのロッカールームで倒れていた。私服に着替えた後だったのでどこの派遣会社の所属かわからず、それを調べるのに手間取ったのもあり救急車で搬送中に亡くなったという。
翌日に花瓶の花を飾ったというのはこのときのことだ。最後の人は夜勤の勤務中に倒れて亡くなったという。アマゾンCEOジェフ・ベゾス
私がアマゾンで働きはじめる直前の10月上旬に亡くなっているのだ。亡くなったのは10月10日の午前9時過ぎ。50代の女性が(棚入れ)の作業中に倒れそのまま亡くなったという。女性の名前は内田里香(仮名)で派遣会社の名前もわかっている。これなら遺族までたどり着ける可能性があるなと思いながら話を聞いていた。次に西川が語る「ワーカーさんへの迷惑」というのは私が働く半年前に起こった。アマゾンが現状の派遣会社経由でのアルバイトの契約を打ち切り、時給を300円近く引き上げ、アマゾンとの直接雇用に切り替えようとした。しかし思い通りにアルバイトが集まらず計画を打ち切ったことを指している。最後のワーカーさんへのパワハラは、体調を崩して休みがちになったアルバイトを無理やり自主退職に追い込んだことなどを意味している。救急車が来るまでに1時間そのなかでも重大に思えたのは、働いている最中に亡くなった人が複数いるということだ。まずは10月10日に亡くなったという内田について取材を進めた。複数の関係者に話を聞いた結果内田が亡くなったのは次のような経緯だった。内田の勤務時間は朝9時から夕方6時まで。そして、9時半ごろに4階の物流センター内で"Bトンボ"と呼ばれる調達用品の置き場の近くの棚の間に内田が倒れているのが発見されたという。発見したのはピッキングのアルバイトの男性だった。その男性は倒れた内田が発するいびきみたいな音を耳にしている。男性がそのことをアウトバウンド(商品のピッキングから梱包・出荷までの作業)のリーダーに連絡すると、それをインバウンド(商品の納品から棚入れまでの作業)のリーダーに引き継いだ。ピッキングというのはアウトバウンドの一部で内田の担当していたストーはインバウンドの一部だからだ。インバウンドのリーダーは「あとはオレがやっておきますんで」と言って引き継いだ。ちなみに、この"Bトンボ"は、4階の詰所から歩いて1、2分の位置にある。このインバウンドのリーダーは上司のスーパーバイザーに携帯電話で連絡してから内田が倒れている現場からいったん離れた。第一発見者のアルバイトに加え、内田が倒れていることに気づいたもう1人の男性アルバイトも、事の成り行きを見守っていると、リーダーが電話してスーパーバイザーがやってくるのに10分近くかかったという。その間内田のいびきのような音も徐々に小さくなっていくのに気がついていた、と彼らは口をそろえる。スーパーバイザーは、警備員と一緒に車椅子を持ってきたがとても車椅子に乗せられる状態ではないということで今度はアマゾンの社員を携帯電話で呼んだ。10人ほどのアマゾン社員とセンター内の救急隊がAED(自動体外式除細動器)を持ってやってきた。しかしAEDによる応急措置をほどこすと内田は吐血した。ようやく救急車が呼ばれ物流センターの1階に到着したのは10時30分過ぎのこと。内田が倒れてから1時間前後がたっている。その後搬送された病院で息を引き取る。享年59。死亡届に記入された死因はくも膜下出血だった。亡くなった当日の朝内田と言葉を交わした庄司恵子(仮名)はこう話す。「9時の始業前に、2階の静脈認証のコンピュータの前で顔を合わせると、おはようっていつも通りにあいさつしたんです。今日の作業はどこなのって、内田さんに訊かれたので、2階でストーですって言うと私はいつもと変わらず4階のBトンボだよって返事があったんです。じゃあまたお昼にねって言って別れたんです。出勤日が同じときはいつも仲間数人で一緒にお昼を食べていましたから」しかし正午のお昼休憩になっても内田が食堂に姿を現すことはなかった。庄司は仲間と「どうしたんだろうね」「休憩時間がずれることはめったにないんだけどね」などと話していた。庄司が内田が倒れたことを聞いたのは、午後5時ごろのこと。作業場所が移動となったので配置表を見ているとき別のアルバイトから「今朝内田さんが倒れたのを知っている?」と言われはじめて内田が病院に運ばれたのを知る。内田が亡くなったのを知るのは翌日出勤してからのこと。アルバイト仲間が教えてくれた。庄司はこう語る。「びっくりしたのはもちろんのことですが、信じられない気持ちの方が大きかったですね。その日の朝お昼を一緒に食べようねって話していた人が突然いなくなるなんて。生まれてはじめて経験しましたがこんな別れ方もあるんだなって呆然としました」冒頭の西川が嘆いたように内田が亡くなったという事実が物流センター内の朝礼で語られることはなかった。アマゾン小田原物流センターで、5年で5人の急死者が出ているという情報を上の引用から得て、私が最初に思ったのは、冒頭リンクにも指摘されているが、小田原市の放射能汚染と突然死の多さである。2011年から数年間は小田原市における被曝問題と突然死の多さを警鐘するリンクをグーグルでたくさん見つけることができたが今調べ直そうとするとほとんど出てこなくなった。たくさんブログに上程している被曝問題の告発記事も、ほとんど検索できない状態でありグーグルが意図的に被曝問題を検索させない操作を行っていることがよく分かる。これは安倍政権の北村滋(日本版CIA長官)らによる情報統制の浸透なのだろう。小田原の放射能汚染による健康被害とともに、アマゾン物流センター内での環境による健康被害である。アマゾンの物流センター内の環境を想像しただけで、頭がクラクラしてくる。こんな環境でアレルギー体質の者が長時間作業していれば化学物質過敏症によって反応したり血圧が上がったりの健康被害が容易に起きるのではないかという気がしている。横田増生さんに取り上げられた内田さんはくも膜下出血を起こしたとのことだが他の4名の死者も似たような死因が多い。アマゾン内の仕事環境は一秒単位で作業が定められ自由にトイレに行くこともできないらしい。9時間の勤務中はほとんど腰を下ろすこともできず歩きぱなしと聞いている。そうして考えれば劣悪な化学臭環境、放射能汚染、過労と三拍子揃っていて、くも膜下出血=脳卒中も当然のように思える。人間を機械の部品として扱うアマゾンの金儲け一辺倒の管理体質こそが5名を殺した主犯なのだろうと容易に想像できるのである
人間には、長い時間かけて定まった人間の生活、作業スタイルがあって、巨大企業がコンピュータで計算したような作業カリキュラムの強要には耐えられないと思う。とりわけ金儲けしか考えない外資のシステムは非人間的であり金儲けが最大の目的でありそれを規制するものがあるとすれば、外部的な批判に耐える体裁というところだろう。
金儲けしか考えられない巨大企業の強要する作業スタイルは人間の健康を保証するものではなく、苛酷な作業で健康を害した人間は切り捨て追放することしか考えていないのだろうと思う。この企業はまともな人間性で運営されていないのだ。その経過は上の記事に克明に記されていてこうした現実を我々が世間に拡散することが、少しでも人間的な環境に向けて体質を変える力として作用することを期待したい。