承認へのお礼の大名旅行 

全家連が厚労省にジプレキサの早期承認を求める要望書を出したその3か月後の1999年7月。日本イーライリリーは、全家連の幹部をシカゴで開かれたアメリカの「NAMI」という家族会の大会に旅費その他丸抱えで招待している。その中にあのI弁護士もいた。I弁護士は全家連の常務理事・顧問弁護士でもあった。さらに翌々年2001年すでに1996年にリスパダールの早期承認を得たヤンセン協和はそのご褒美にといわんばかりに、I弁護士をはじめとする全家連の幹部を、またしてもワシントンDCで開かれたNAMIの大会に招待している。

前述の「一枚の写真」とは、このとき撮られた集合写真のことだ。全家連の幹部やヤンセン協和の職員たちが食事を済ませたあと、丸テーブルを囲むように並んだ右端にちょこんと座ってうっすら笑顔を見せているI弁護士がいる。これは全家連と外資系製薬企業の癒着の果てに現在大量に処方されるようになった「非定型抗精神病薬」が承認されたという証拠写真ともいえるものだ。大名旅行が実施される前、全家連がNAMIの大会への参加者募集の資料を配布している。その資料によるとまずI弁護士など3名が当会合で発表すると公表しているのだがそのあとの文言がすごい。「非定型抗精神病薬の開発メーカーである日本イーライリリー株式会社、ヤンセン協和株式会社の援助により」とスポンサーを公然と明かし、そのうえで費用として「航空券、ホテル代は日本イーライリリー、ヤンセン協和が負担します」と堂々書かれているのだ。もちろん航空機はビジネスクラス。ホテルは一流ホテルである。これでは癒着を自ら吐露しているのも同然だがすでにもうそれくらい倫理観が麻痺していたということか。金まみれの製薬企業の接待攻勢、そこに何の違和感もなくのっかってしまう患者団体幹部たち。背後には厚労省の存在もある。ある厚労省の役人が次のように証言している。「全家連事務局は腐敗している。一種のたかりだ。薬屋をスポンサーにして海外旅行している。欧米のイーライリリー、ヤンセンだ。薬で精神障害は治らないのにだ。それを承知で厚生省は認可している。これは大変なことだ。はっきりいって今の厚労省にはやる気のない職員しかいない」じつはこうした事実を表に出して、本澤二郎氏に本を書かせたのは、全家連専務理事の荒井元傳氏がいたからだ。何とか全家連を本来の正しい方向に向かわせようとしていた荒井氏は、全家連幹部にとっては目の上のたんこぶだった。そこで策を講じて彼を全家連という組織から追い落としたのだ。そこに手を貸したのもI弁護士である

荒井前専務理事が解任されたことで、事の成り行きを事細かに「メモ」していた荒井氏のそれが表に出て、全家連の悪だくみが白日の下にさらされることになったわけだ。それにしてもI弁護士。Youtubeでは、新たに精神医療分野に足を踏み入れた有名弁護士の取材を受け「患者の味方」ふうの演出に余念がなかった。いやもともと柔和な人である。すでに15年も前のこと、時効といったところだろうか。が一方で倫理観の薄さ、権力志向お金大好きといった癖は、人間そうそう簡単に治るものではないと思う。さらにもう一方のことを言えば、精神医療問題を受任してくれる弁護士。その数の少なさを考えると、当事者・家族にとってはたいへん貴重な存在であるのもまた事実だ。


「お上」の不正や腐敗は外務省の専売特許じゃない。公益法人「全家連」元専務理事の勇気ある内部告発にもとづき、気鋭のジャーナリストが、右翼の介入にも屈せず厚労省の驚くべき腐敗の実態を暴く。日本はなぜこれほどに腐りきってしまったのか、日本文化論を掘り下げながら明らかにする。