人の心理社会的発達は、著名な発達心理学者であった米国人のエリク・エリクソンによれば、生まれた直後の乳児期から8つの発達段階を経て、漸成的に完成していきます。今回は13歳くらいから21歳くらいまでの青年期(第5段階)における心理社会的発達の意義と、この時期特有のアイデンティティの危機、そしてそれに関連する心の病気並びにエリクソンの理論を元に青年期を無事、乗り切っていくためのヒントも詳しく解説していきます。

 

青年期に自分はいったい何者なのかと、思い悩んだ事を覚えていらっしゃいますか?

人の心理社会的発達は、著名な発達心理学者であった米国人のエリク・エリクソンによれば、ライフサイクルの折々で発達課題を順調にこなしていく事が大変重要です。今回はエリクソンが提唱した、人の心理社会的発達に関する著名な理論の中から、人はその人生の折々で、いかなる発達課題をこなす事になっているのか、またそこでいったんつまずくと、その後どのような心理的問題が生じやすくなるのか。そして場合によっては、それが心の病気につながってしまう可能性もある事を児童期の次の段階である青年期について重点的に解説していきます。

 

青年期における心理社会的発達の意義

今回、取り上げる青年期は時期的には13歳くらいから21歳くらいまででエリクソンが提唱した人の心理社会的発達における8つの発達段階のうち第5段階になります。この時期に対応する2つの心理的側面は「同一性」とそれと対の関係をなす「同一性拡散」となっています。青年期の始まりは第二次性徴とも重なり、男性なら男性らしい、女性なら女性らしい肉体に、はっきり変化していく時期です。この時期自分は他人の目にどう映っているのか、あるいは他人からいったいどう思われているのかが気になりやすく青年期は自分というこの世の存在をはっきり意識し始める時期。この青年期における最大の発達課題は、エリクソンによれば自分というアイデンティティの基盤をしっかり固める事。もしもこの時期、何らかのつまずきのため、アイデンティティの基盤がしっかり形成されなければ、エリクソンによれば、自分はいったい何者なのかというアイデンティティの混乱から精神的に不安定になってしまい、場合によっては、心の葛藤が深刻化して、心の病気につながってしまう可能性もあります。

 

青年期に関連する心の病気

エリクソンによれば、青年期の発達課題に、もしも、つまずいてしまった場合、自分は何者であるのかというアイデンティティの混乱から、様々な問題が生じてくるとしています。例えば自分の家が自分本来の居場所だと感じられなくなってしまい、家出してしまう。あるいは不良グループに入ってしまい、仲間同士の関係に自分が流されていくうちに本来の自分を見失ってしまう。また場合によっては、心の不安定さが大きく高まり、境界性パーソナリティ障害的な症状を発症してしまう場合もあります。さらに性的アイデンティティが混乱している場合は、性同一性障害につながってしまう可能性も出てきます。

 

青年期を無事、乗り越えていくためのヒント

青年期は一般に人生で最も多感な時期。現在頭に白いものが多々混じるようになってしまった方でも10代の子供たちの楽しそうな姿を見れば、「ああ、オレにも昔、あんな頃があったな」とちょっとしんみりする事もあるかも知れません。実際青年期の子供たちは、みな自分なりに一生懸命。ただこの時期には、この時期特有の発達課題があるという事は、はっきり意識しておきたい事だと思います。自分はいったい何者なのかという問いにはっきり答えを出せるようになると言えば、いささか哲学的な難問になってしまうかも知れませんが、社会における自分の役割をこれから見出して行くのだという事をしっかり意識しておく事は、10代の子供たちが持つ、大きなエネルギーの向かうべき先が現われる手助けになると思います。

青年期は自分の属するグループの影響を特に受けやすい時期である事は親御さんも要注意。青年期の子供はたとえ見かけは大人のようでも、まだまだ心は大人の成熟さからはほど遠いものです。

 何でも自己責任とは言えない面もあり、もしも子供が明らかに望ましくないグループに入っているような場合、そのグループから子供が抜け出すためには、親御さんの力がどうしても必要になる場合もあるでしょう。また親御さんが子供の将来に関して自分の価値観を押し付けてしまうと、時には大変なNGになってしまいます.。時代の動きには大人以上に青年期の多感な子供の方が、敏感かつ正確である場合もあります。親御さんは子供がアイデンティティを確立させていく手助けは出来ても、それを達成するのはやはり子供に任せるしかないという事は、時に意識しておいた方が良い場合もあると思います。また場合によっては「勉強が大変苦手」あるいは「容姿を他人からちょっとからかわれてしまう」といった事から劣等感が強まってしまい、仲間うちにも入れず、心に悩みを抱え込んでしまう場合もあると思います。もしもその苦しみが頭から離れず、こなさなくてはいけない勉学に打ち込めなくなるなど、弊害が深刻化しているような場合カウンセリングを受けて、専門家に悩みを話してみる事なども、人生をよりポジティブな方向に向ける手助けになり得る事は是非親御さんもご留意して頂きたいところです。

ところで、エリクソンはユダヤ人の家庭で育ち、子供時代、北欧系の外見から、ユダヤ人の子供たちからは仲間扱いされず、学校に上がったあとはドイツ人の同級生からやユダヤ人と見なされていたため、自らのアイデンティティに悩んでいた時期がありました。それこそが、エリクソンを発達心理学の道に進ませる原動力だと言われていますが、エリクソンによれば青年期は誰でも自分自身に思い悩む頃であり、アイデンティティの危機自体は程度の差こそあれ、皆、経験するものです。

 従って、それから生じる問題行動や精神疾患の病的意義は、他の年代と比べればさほどでは無いとしています。実際10代の頃いわゆる、やんちゃが過ぎた方でも、月日が流れていくうちにその面影も無いほど、落ち着いた物腰の大人になられた方も少なくないものです。とはいえ10代の子供たちにとっては現実は多感な毎日です。時代は一昔前とはガラリと変わり、将来の見通しが、かつてないほど付きにくい現状で10代の子供たちが自分のアイデンティティを確立して、社会の中での役割を見出していくためには、周囲の力もかつてないほど必要になってきているはずで、こうした事はもはや、私たちみんなで真剣に考えたい問題になってきているのではないでしょうか。