過去の体験や出来事の記憶が抜け落ちたり、新しいことを覚えることができなくなったりする「記憶障害」はさまざまな要因で引き起こされます。中でも高齢者で最も多い要因は認知症によるものです。この記事では記憶障害の原因や種類、それぞれの症状、治療法、さらに身近な人が記憶障害になったときにどう対応すればいいのかなどについて解説していきます。

記憶障害とは

記憶障害には、新しい出来事を覚えることができなかったり、覚えてもすぐに忘れてしまったり、自分がこれまで体験してきた過去の出来事について思い出せなかったりする症状があります。

私たちの生活は、膨大な記憶によって支えられています。記憶障害を理解するために、まずはこの「記憶」について基本的なことを理解しておきましょう。


記憶の仕組みと分類 

記憶の仕組

「記憶」とは、ものごとを忘れずに覚えていて、必要なときに思い出すことです。「記憶する」ということは、五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)から入力した情報を、「1.記銘:覚える」→「2.保持:忘れずに維持する」→「3.検索(想起・再生):思い出す」というプロセスをたどります。さらにこの「記憶」は、記憶していられる時間、情報の種類などといった内容の違いで、以下のように分類されています。 


時間の要素による分類 : 短期記憶(即時記憶)、長期記憶(近時記憶・遠隔記憶)、展望記憶など 

情報の種類による分類 : 意味記憶、エピソード記憶、手続き記憶など

情報の様式による分類 : 言語的記憶、視覚的記憶など

覚え方による記憶の分類 : 陳述的記憶(頭で覚える)手続き記憶(体で覚える)など


記憶障害の原因

記憶障害は以下のようなさまざまな要因で現れます。・加齢によるもの・軽度認知障害(MCI)

・認知症・うつ病・脳卒中や脳外傷、低酸素脳症などによる高次脳機能障害・強いストレスなどによるPTSD・慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症、甲状腺機能低下、ビタミン欠乏症など。高齢者に多い記憶障害の原因は認知症です。また軽度認知障害は認知症の前段階と考えられていて、軽度認知障害の人の約半数が5年以内に認知症を発症するといわれています。

記憶障害の種類と症状

先ほど「記憶」は内容の違いによっていくつかに分類されると説明しましたが、記憶障害も以下のように幾つかの種類に分類され、症状もそれぞれ異なります。


・短期記憶障害…新しい記憶を格納する脳の海馬機能が低下し、数十秒から1分程度の短期記憶に障害が生じる

例)今日の日付や曜日が分からない、一日に何度も同じことを聞く、コンロの火をつけたことを忘れてつけっぱなしにする


・長期記憶障害…数分から数カ月単位の近い過去や年単位で蓄えられた記憶に障害が生じる

例)自分の通った学校の名前や自分の職業、家族の名前や顔などを忘れる


・エピソード記憶の障害…自分が体験してきた出来事(エピソード)の記憶に障害が生じる

例)昨日あったこと、学生生活での出来事、家族旅行で体験したことなど、出来事そのものを忘れる


・意味記憶障害…花や動物の名称、自然の摂理、歴史上の人物の名前など、これまで蓄えた知識に生じる障害

例)ものの名前や意味が分からず、「あれ」「それ」などの指示語が会話に増える


・手続き記憶障害…学習や練習によって身に付けた技術、自然と体が覚えている作業などに生じる障害

例)自転車に乗ったり、ピアノを弾いたり、料理や洗濯をしたりなどができなくなる