精神科病院への入院は入院に「本人の同意」の有無がポイントとなります。内科や外科の手術の同意と似ていますが、本人が拒否しても精神科医の判断で入院させることができるのが、精神科病院への入院です。家族の方で「状態が悪いから入院の相談をしたのにできなかった」「入院しなくても大丈夫と思っていたら、本人と医師の間で入院が決まった」などの経験をされたことがあるかもしれません。それは精神科医が診察をして入院治療が必要な状態なのかの判断と、入院に本人が同意することが関係しているためです。精神科医は本人の状態を考え、入院を検討します。そして入院治療が必要だと判断した際に、本人にその旨を伝え入院への同意が得られれば、初めて入院となります。本人の調子が悪く、主治医も入院が必要だと判断したときに、本人が入院に同意すればいいのですが、しない場合は家族に入院への同意を求めることになります。つまり本人が入院を拒否しても主治医の診断と家族の同意があれば入院治療が受けられる方法があります。。そういった入院の方法についての内容が「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下精神保健福祉法)に定められています。そういった入院の方法についての内容が「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下精神保健福祉法)に定められています

精神保健福祉法による入院とは?

1.「本人の同意での入院」

任意入院(第20条)

原則として開放病棟に入院することとしていますが、本人が同意をした場合には、閉鎖病棟に入院することもあります。この形態は、本人が希望すればいつでも退院が可能です。ただし、精神保健指定医(精神保健福祉法に定められた基準を満たした医師。以下、指定医)が入院継続の必要があると判断した場合には、72時間に限り退院を制限することがあります。この場合72時間以内に以下に説明する入院形態へ変更することもあります。

2.「本人以外の同意での入院」

①医療保護入院(第33条)

本人の病状などにより、入院の同意が得られないときがあります。その場合、指定医が入院を必要だと判断し、家族等(配偶者、父母、祖父母、子孫、兄弟姉妹、後見人または保佐人を指します。また、叔父叔母、甥姪が家庭裁判所で扶養義務者の選任を受けると、この該当になります。)の同意が得られると、本人の同意がなくても入院できるのが、この形態です。平成26年4月に精神保健福祉法の改正があり、保護者制度が廃止になりました。今までは保護者となった方が本人に代わって入院の同意を取る方法がこの入院形態でしたが保護者になる際には「治療を受けさせること」や「財産上の利益を保護すること」などの義務が課されていました。しかし保護者になる家族の高齢化等により、その保護者のみが法律上課せられた様々な義務をおこなうことは負担が大きいのではないか、という時代的背景もあり、保護者が同意をする制度はなくなりました。そのため、指定医の医療的判断と家族等のうちいずれかの方の同意があれば、医療保護入院となります。法律上は同意した後に特別な義務や権利を持つことはありませんが、同意した方の本人確認のできる運転免許証や保険証等の提示と、家族関係の確認ができる戸籍謄本や住民票等の用意を病院から依頼されることがあります。また、医療保護入院をされた方全員に「退院後生活環境相談員」が選任されるようになりました。精神保健福祉士等から選任されるこの「退院後生活環境相談員」の役割として、医療保護入院者の早期退院をめざすとともに、退院後の生活の安定も考えて、地域援助事業者(相談支援事業者等福祉サービス事業者)を紹介することもあります。また入院時に作成する入院診療計画書に基づきあらかじめ決めた入院予定期間の前後に退院支援委員会を開きあらためて退院に向けた話し合いをするようにもなりました。

②措置入院(第29条)

警察などから通報があり保護された、自傷他害(自分や周りを傷つけること)の恐れがある精神障がい者を精神保健指定医2名が診察し2名とも入院が必要だと判断した場合、都道府県知事の命令によって入院となるのがこの形態です。夜間など緊急のときは、指定医1名のみの診察でも精神障害があり入院治療をおこなわなければ、本人の医療や身体の保護ができないと判断された場合、本人や家族等の同意が得られなくても、72時間以内に限り入院の方法が取れる「緊急措置入院」もあります。

③応急入院(第33条の7)

応急入院指定病院(精神保健福祉法に定められた基準を満たしている病院)において、指定医が診察した結果、精神障がいがあり、緊急に入院治療をおこなう必要があると判断された場合、本人や家族等などの同意が得られない状態でも72時間以内に限り入院ができる方法です。しかし、これは誰の同意もないという状態の入院形態であり、一般的な入院方法ではないと言えるでしょう。入院はどの場合においても、人権に配慮して、精神科医からの告知書や、本人または家族等の同意書(応急入院は除く)のように書面を用いて入院手続きが進められることになっています。

  • 緊急措置入院
    措置入院には、2名の精神保健指定医の診察が必要であるが、緊急を要し、指定医2名がそろわないなど手続をとることができない場合があります。このようなとき、1名の精神保健指定医が、精神障害のために自身を傷つけ、または他人を害するおそれが著しいと認めたときは、知事の命令により入院させることができます。
    緊急措置入院は72時間に限られるので、改めて2名の指定医により措置入院についての診察が行われることが通例です。(詳しくは、精神保健福祉法第29条の2参照)
  • 応急入院
    精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければ、その者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者について、通常の任意入院や医療保護入院、措置入院を行うことができない場合、応急入院指定病院であれば、精神保健指定医の診察を経て72時間に限り、入院させることができます。
    (詳しくは、精神保健福祉法第33条の7参照)

なぜ法律でこのようなことを定めているのかというと日本の精神障がい者の法律が人権擁護にほど遠いものから始まったからです。その歴史をみると自宅に牢をつくり世間の目に触れないようにできる法律(精神病者監護法)や、本人の意思とは無関係の入院が乱発した時代(任意入院のような制度がなかった)がありました。現在の精神保健福祉法になるまでに幾度も改正を繰り返し、障がい者の人権を配慮する法律へと変わってきました「わが国十何万の精神病者はこの病を受けたるの不幸の他に、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」という、わが国の精神医療の近代化に貢献した、呉秀三の言葉がその状況を表していたのではないでしょうか。それを改善していくことは、専門家の役目ですが、その後押しをするのは、当事者の声であったり、そばで幸せを願う家族の気持ちであったりします。一人の人間としての尊厳が守られ、本人自身が「治療に参加する」ことができるように、「入院」を一助とするためにも、本人や家族だけで抱え込まず、主治医や精神保健福祉士(ソーシャルワーカー)にぜひ相談をしていただければと思います。