つらい体験を突然思い出すなどの症状がある「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」に関係する遺伝子を特定し、発症メカニズムを解明したと東京大などの研究チームが発表した。新たな診断方法や治療薬の開発につながる可能性がある。成果が科学誌モレキュラー・サイカイアトリーに掲載された。PTSDは精神疾患の一つで、事故や災害などのつらい体験を繰り返し思い出したり、精神的苦痛を抱いたりする。

 喜田聡・東大教授(神経科学)らのチームは、PTSD患者などの血液を解析し、遺伝子「PDE4B」の働きが弱まっていることを見いだした。この遺伝子の働きが弱まると、記憶などに関わる脳の回路が過剰に活性化し、PTSDにつながるとみられる。マウス実験で人為的にこの回路を活性化すると、PTSDの重症度が増すこともわかった。一方、この回路は開発中の慢性 とう痛治療薬で不活性化することもわかり、治療法につながる可能性があるという。

  富山大の井ノ口馨・卓越教授(脳神経科学)の話 「PTSDの原因となる特定の部位をターゲットとした治療法の確立に、かなり近づいたと言えるだろう」


遺伝はPTSDの発症や治癒に関連しており、治らない要因の一つと考えられています。双子研究によると、PTSDの遺伝率は30~40%とされています。つまり、遺伝的にPTSDになりやすい人や、遺伝的にPTSDが治りにくい人がいるということです。また、特定の遺伝子がトラウマ体験後の自然治癒を阻害したり、危険な行動を促したりする可能性があります。しかし、PTSDの発症リスクを高める遺伝子の特定については、まだ十分に解明されていません。PTSDの症状を悪化させる要因の一つとして、飲酒・喫煙・カフェインの摂取量増加による生活習慣の悪化が挙げられます。とくに、カフェインは不安を悪化させる作用があるため注意が必要です。また、飲酒・喫煙・カフェインはいずれも依存性があり、辞めたり量を減らしたりしたときに、気分の落ち込みやイライラ、不安などの離脱症状が現れることがあります。

そのため、PTSDの治療においては、こうした嗜癖行動を止めることが重要です。

PTSDと合併しやすい疾患は?

男性PTSD患者

アルコール依存症
有症率:52%

うつ病
有症率:48%

行為障害
有症率:43%

薬物依存
有症率:35%

恐怖症
有症率:31%

PTSDの方は、合併症を引き起こす可能性が80~90%とも言われています。

その中でも、アルコール依存症は、トラウマ体験に対する心理的な反応や、無意識のうちに行われる自己治療の試みと考えられています。

ただし、アルコールを断酒したり、量を減らしたりすると、離脱症状が発生する可能性があるため、注意が必要です。

また、女性に比べて男性は、アルコール、ニコチン、薬物などの物質依存を引き起こす可能性が高くなります。

女性PTSD患者

うつ病
有症率:49%

アルコール依存症
有症率:30%

薬物依存

有症率:27%

恐怖症

有症率:29%

行為障害

有症率:15%

女性のPTSD患者は、男性のPTSD患者と比べて、うつ病を合併する確率が最も高いとされています。

うつ病から回復するには、脳を休ませ、不安や焦りのない、穏やかな心の状態をつくることが大切です。

また、女性の場合、妊娠や出産時に、睡眠の変化やホルモンバランスの変化、社会的なストレスなど、さまざまなストレスが合併症を引き起こす要因となると考えられています。