名古屋女 | 錦鯉春助の冒険

錦鯉春助の冒険

日常の恐ろしき風景

 2年生になると僕は殆ど大学へは行かず新宿でバーテンダーをやっていた。


 だがまだ大学を辞める気はなく仕事の合間に授業を受けていた


 大学近くの喫茶店でよく時間を潰したが、そこでウェイトレスのバイトをしていたのがT子だった。


 時たま彼女と短い会話を交わすと学部は異なるが同じ大学だと分かった。それにアクセントから愛知か岐阜辺りだと見当がつく(後に名古屋市内だと分かる)


 ショートカットのヘアーにクリクリした大きな瞳に色白。身長は高い部類に入る。何より中年オジ様達がお手当を挙げたくなる典型的タイプだ


 しかし名古屋は不可解な地域だ。天気予報や高校野球のブロック別は東日本だが、電気の周波数や電話のNTTは西日本だ


 同じ東海地方でも東の静岡は完全な東日本であり、西に位置する三重の一部は大阪の衛星都市だ


 T子とは時々飲みに行くようになった。勿論友達としてであり男女の関係はない


 彼女は見かけによらず酒が強かった。酔って顔が桜色に染まり大きな瞳でじっと見つめられると中年オジ様達がお手当を弾みたくなるのが分かる


「お餅は四角の切り餅だし、カレーも関西と違ってポークが主流だし」


「ふーん。東日本なの」


「それが違うの。名古屋人にアンケートを取ったら西日本派が6割以上なのよ」


「君自身はどうなの?」


「私?やはり吉本新喜劇が放送されてるのや近鉄電車の直行便があるのは大きく影響するわね。でも名古屋人はズルいから東と西を適当に使い分けるのよ」


「じゃ、あれはどう云うの?」


「あれ?」


「お○ん○なの?○め○なの?」


 彼女は真赤に顔を染めて僕を濡れた瞳で見つめた。中年のオジ様ならお手当を挙げたくなる瞳だ


「ふう〜ん。そうやって女の子をナンパするんだ」


 それ以後から男女を意識したのは彼女の方だ。僕達は一度だけホテルへ行った


 僕は行為の最中に名古屋の呼び方を彼女に執拗に尋ねた。こう云う男が一番厄介だ(笑)


 結合したまま片手で胸を、もう片手で裏門を執拗に攻めて尋ねた。彼女が根を挙げた


「オ○ン○ヨだよ!恥ずかしい!」

 彼女が顔をそむけ眼が合わぬようにして言葉を喉から搾り出した


 それは僕が初めて聞く言葉だった