「なんか、がっかりしてる?」

「え、なんで?」

「あんまり、しゃべらないから…」

「あ、ちょっと人見知りなんで…」



あたしは人見知りなんかしない。
おっしゃるとおりがっかりしているんです。
なんて言えるはずがない。


ネットで知り合った人に会うのは初めてじゃない。

16歳のとき、
相手があまりにもイメージと違いすぎて、
トイレに行くと言って渋谷の青山通りを全力疾走した。


26になった今、
またそれをやることになるなんて思わなかった。

今度は五反田だけど。


あたしはまたトイレ、と言って席を立つ。
鏡張りの店内なのが難点だ。

あたしは身をかがめて歩き、
隙を見て一目散に店から駅まで走った。

エスカレーターをかけあがり、
渋谷に向かう山手線にかけこんだ。


全力で走ったのは久々だ。

呼吸がついていけず吐き気さえする。

10センチのヒールでも結構走れるもんだと冷静に思う。

走っている間、
周りの人があたしを変な目で見ていた気がする。

エスカレーターで走るなんて迷惑なことをしてしまったが今は許してほしい。


渋谷につき、とりあえずベンチに座った。

この寒いのにまだ汗が流れる。
たまには運動しなきゃな、と冷静に思う。


元彼に電話をして今の出来事を話し、笑い飛ばす。



無性に前の会社の上司に会いたい。

どうしても今会いたい。


彼とは先々週に喧嘩をしてそれっきりだ。

イライラしたあたしのご機嫌をとる彼がいまいましくて、
あたしは「べつに」と「あ”?」しか言わなかった。

バイバイすら言わずに別れた。


彼にメールをする。


あたし:「今渋谷。どうしても会いたい。」

彼:「確定申告で忙しいから、また今度ね。」

あたし:「お願い今日会いたいの。」

彼:「じゃあいつもの店で5分後。」


なんだかんだいつもわがままを聞いてくれるから好きだ。
いつもの高級焼肉店へ急いだ。


すべてを話すと

「おまえはほんっと面白いよなぁ」

と彼は笑った。

仕事の事、会社のバレンタイン事情など、
決算とか繁忙期とか、真面目な話もした。


彼は疲れているのか病み上がりのせいかやつれていた。
いつもはしないのに店員にイラついていた。


あたしもいつもはしないが小さな声で優しくなだめる。

「Kちゃん。まぁまぁ…」

これくらいしか言えないが。


人の上に立つ役の人ってかっこいいなと思った。
色々な事がそれなりだからなのかもしれない。


あたし:「やっぱKちゃんかっこいいわ。こんないい男と一緒の空気吸えて幸せ!」

彼:「なんだよ急に(笑)なんか欲しいのか?」

あたし:「シャネルかなんか買ってくれてもいいけど、べつに欲しくない。」

彼:「は?やせてて美少女でもないのに調子のんなよ。」

あたし:「今日はあたしが会計してあげるーうふふ」




別れるときはさらっと別れる。
会いたいときだけ会う。
お互い暇つぶしみたいなもの。


彼:「じゃ、気をつけてね。」

あたし:「ありがとね。じゃあねー」




あたしはいつ大人になるんだろう?