Kに会う前に、ゴールデン街で飲んだ。

ママがあたしのことを覚えていてくれた。


完全に泥酔している歯科医や、
アフターでキャバ嬢とホテルにいくのが趣味の会計士のお客さんと盛り上がり、酔った。



4、5時間飲んだあと、店の下でKと待ち合わせた



。いつも白スーツなのに、今日は白でも黒でもなく、グレーのリクルートスーツだった。


エレベーターに乗った瞬間、Kは言った。



『昼の仕事するためにもうすぐホストやめるから。
まだみんなに言ってないからさ。あんま触れないで。』



あたしはそれが聞きたかったので、少し嬉しくなった。


でもすぐに、不安でいっぱいになった。

あたしの勘は当たっていたんだ。



この日Kの客はあたしひとりだった。


Kはすぐについて、前からついてくれた子や新しい子がヘルプについてくれた。



大好きなイケメン翔は休みだった。


翔に可愛がられているらしい、新人の来夢が目についた。



いかにも新人ホストらしくて年下みたいな可愛らしさがにじみ出ている。

左手のある指に入れ墨があった。


彼が、歌舞伎町界隈では名の知れたやくざの親分の息子であることは後で知った。




あたしはKのことが好きだった。


好きだから、高いお金を払って会いに出かけていた。


普通の感覚からいえば、決して安い金額はいえないが、


自分にできる支払いの安さに申し訳なさを感じていた。



Kと会えるのは、今度のラストイベントで最後だ。


思っていたより早く終わりがくる。



なんで泣く必要があるのかわからないのに涙をとめられないまま、


あたしは眠りについた。