当時あたしは大学3年だった。


ゼミの教授からゴールデン街のことを聞いた。


大人の玄人の集まる場所で、行ってみたいけど行けないところだと。



同じ頃、あたしは親からの束縛に耐えきれず、精神的に辛かった。


社会的にしてはいけないことまで考えてしまうようになり、もうどうにでもなれという自棄もあった。

浴びるほど酒を飲んで忘れてしまいたかった。



冬になりはじめた寒い日。


終電で新宿に向かいゴールデン街を歩く。


ドアはどこも閉まっている。



そこで唯一照明の明るい店のドアを開け、トコトコ入った。



カウンターにいる女性は、ひとりで来た女の子ははじめてだと言って驚いていた。



少し話しているとあたしに言った。


『何か嫌なことあって飲みに来たんでしょう?』


図星だったので本当に驚いた。

きっとこの人は超能力者で、あたしの心はすべてお見通しなんだと思った。


彼女は言った。



『長く水商売やってればすぐわかる。』



あたしは悩んでいることをうまく言えなかったけど、それをわかってもらえたことがうれしかった。



他のお客さんともあたしは口をきいた。


全員初対面だが、あたしはすぐにその空気が気に入った。


隣にいた男性は、あたしの分まで会計していった。



これがゴールデン街とママとの出会いだった。


数ヶ月後、あたしはここで働くことになる。



この日は濃い酒を沢山飲んだせいか、千鳥足になった。

ここまで酔ったのは初めてだった。




左手でKに電話をしながら、足はKの店へ向かっていた。