親和銀行本店などを手掛けた建築家、白井晟一の仕事が紹介されているコーナー=県美術館

長崎市出島町、県美術館常設展示室で開かれている「親和銀行コレクション展」で、親和銀行本店(佐世保市)など同行三店舗の建築設計を手掛けた建築家、白井晟一(一九〇五-八三年)の仕事が紹介されている。設計図や構造の特徴を示す写真などを展示。戦後日本における地方の金融業の場を、既成概念に縛られず設計した白井の思想をたどる展示となっている。七月二十六日まで。

 白井は幼少時、京都の黄檗寺院で書を学び、哲学や宗教にも精通した「哲学の徒」とも称される建築家。当時の同行の北村徳太郎会長からの依頼で東京支店、大波止支店に続き、本店の建築設計に携わった。

 本店は本館第一期、第二期工事と別館、懐霄館(かいしょうかん)の増築の計十年間を費やした。銀行としては珍しく「闇の中にかすかな光が感じられる構造」となっている。
その構造は、白井が一九六五年に発表した「原爆堂計画」を受け継いでいる。同計画は広島の悲劇を描いた画家の丸木位里、俊夫妻の「原爆の図」に触発されて発表。実際の建築を前提にすることなく、設計図として小冊子にまとめた。本店には、らせん階段に従って下端から上階へと上昇していく構造や、外観の特徴となる円筒部分など、同計画の踏襲の跡がある。

 さらに白井は、店舗内の建築資材や加工方法について細部に至るまで吟味。諫早石をタイルのように張り付けた外壁面など、素朴な味わいを醸す工夫も施されている。展示コーナーには、ほかに白井が自ら選び、現在も使用されているいすも展示されている。

 来春以降、白井の展覧会を企画している群馬県立近代美術館学芸員、谷内克聡さんは「白井は戦前からカリスマ的な感じがあり、若者からの評価、共感があった。長崎の作品も含め、総合的な展覧会にしたい」と話していた。

 ◆写真家・小林勝さんとも交流

 長崎市在住の写真家で元親和銀行行員、小林勝さん(82)は親和銀行三十周年誌(一九七二年発行)などで、白井晟一が設計した建築物の撮影に当たった一人だ。

 三十周年誌には同行本店の写真などが掲載。小林さんは白井建築について「本店や大波止支店は、銀行業務を遂行する機能性には欠けると言われることもある。白井さんは『金銭は不浄なもの』と私に話した。真意は分からないが、親和銀行の建築に挑むに当たっては、原爆堂計画では実現できなかった、哲学的な思想を具現化しようとしたのではないか。銀行でありながら、祈りの場でもあると思う」と語る。

 小林さんは六三年、大波止支店落成式の時に初めて白井と対面した。式に招待された父、故明さんの横に立つ白井の写真も撮影し、そのネガはずっと大切にしている。


http://www.nagasaki-np.co.jp/kiji/20090522/09.shtml