ヘミングウェイやピカソなど有名な小説家や芸術家も使っていたと宣伝することで、Moleskineは成功を収めている。

 硬い表紙と十分なページ数、閉じるためのゴムバンドが特徴のMoleskine社のノートは、ファンから熱烈な支持を得ている。コミュニティサイトFlickr内のコンテンツ「Moleskine: One Page at a Time」には2855人が登録しており、自分たちが装丁したMoleskineの写真をアップロードしている。イリノイ州Nilesに住む芸術家で「ドキュメンタリー写真家の卵」でもあるArmand Frasco氏は、Moleskineファンのためのブログを立ち上げ、「すべてのノートは平等に作られていない。Moleskineは私をとらえて離さないものではなく、私の生き方そのもの」と語る。

 一つの手帳専門店がどのようにして、すべてのマーケティング担当者が夢見るように、消費者の欲望をかき立てることに成功しているのだろうか? イタリアのメーカーであるMoleskine社は、文学・芸術にかかわってきたその歴史を強調し、購買層にと据えた、流行発信源となるクリエイティブ層の人々にあらゆる機会を利用して訴求している。Moleskine社によれば、ゴッホやピカソ、ヘミングウェイも同社のノートを使っていた。同社の製品を使えば、自分が次のピカソであるかのような気持ちを持ち主が抱くことも理由として、人気を集めている。Moleskine America社のMarco Beghin社長は、「誰もがクリエイティブな気分になる」と言う。

 不況にあっても、こうした特別な気持ちを味わうために人々はお金を出す。今日、作家志望者や芸術家、大学生は、表紙を閉じるためのゴムバンドが特徴的なMoleskineを手に入れるため、高いものには17ドルも支払う。これは大半のペーパーバック(文庫本)を少し上回るくらいの値段。これまで見る限り、Moleskineのノートは景気後退の影響を受けないようだ。Beghin氏によれば、「収益性が極めて高い」同社の昨年の全世界売上高は2億1000万ドルと、2007年実績から14%増加した。製品ラインアップは133に上り、バンドの色の違いによって種類分けされ、ボツワナやマレーシアなど58カ国1万7400カ所で販売している。

 Moleskineは元々、フランスの小さな家族経営の製本業者によって手工業で作られ、パリの文具店で販売された。この製本業者による生産は1986年に終了したが、ミラノの小さな出版社Modo & Modoによって2007年に復刻した。このノートを使っていたイギリスの紀行作家Bruce Chatwin氏(代表作は『Anatomy of Restlessness』や『ソングライン』)が、お気に入りの小さな黒い一冊に付けていたニックネームにちなんで、Modo & Modo社はノートをMoleskineと名付け、イタリア国内で販売を始めた。

 2006年秋には、非公開投資会社SG Capital Europeが6600万ユーロ(8310万ドル)で、Modo & Modo社の株式75%を取得した。残りの25%は、Modo & Modo社の創業者であるFrancesco Franceschi 氏と、Mario Baruzzi氏および現在の経営陣が保有している。

 Staplesといった大規模小売店では販売しないことで、Moleskineは、At a Glanceなどの庶民的な手帳メーカーや文具メーカーとは一線を画そうとしている。Moleskineは2006年に米国に進出。ニューヨークの流行発信地Meatpacking Districtに事務所を開き、Art Directors Clubや近代美術館、Tribeca Film Festivalといった団体に向けた特別仕様のノートを作り始めた。

 米国の現代芸術に携わるクリエイティブ層の人々に広めるため、Moleskine社は、作家のDave Eggers氏や建築家のMichael Graves氏など計70人の音楽家や芸術家にノートを提供し、仕事に使うよう依頼した。そして、使い終わったものをニューヨークのArt Directors Clubに展示した。

 Moleskine製品は長年にわたり、Barnes & Nobleをはじめとする書店で売られていたが、Moleskine社は昨年、米国内の小規模なギフトショップやセレクトショップ、文具店などでの拡販を目指し、デザイン性を重視する出版社Chronicle Booksと提携した。

 Moleskineファンは、デザイン重視のデジタルデバイスの崇拝者でもあることが多いと、Beghin氏はみている。MacBookを使うウェブデザイナーは、傍らにMoleskineを置いている可能性がかなり高いという。こうした背景から、Moleskine社は3月に、同社製品ユーザーのデジタル世界とアナログ世界を融合する方法を見出した。Moleskine.comのサイト内に用意したMSKというツールがそれで、携帯電話からエキスポートしたアドレスやデジタル画像などのネットコンテンツを、Moleskineノートにぴったり収まるPDFに作成できる。 「創造力を解き放つことに値段は付けられない。我が社の製品を自己表現のツール、と常に位置づけている」とBeghin氏は語る。


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Moleskine Pocket Squared Notebook Classic