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黒川紀章氏設計の美術館、10年前から池に水なし 芸術理解せず

 建築家の故黒川紀章氏が設計した和歌山県立近代美術館・博物館(和歌山市)で、玄関前の循環式人工池が約10年前から水が流されず、ほぼ休止状態になっていることが8日、分かった。県は「電気代節約のため」と説明するが、同館は平成10年に「公共建築百選」に選ばれた傑作で、人工池は夜にライトアップされた和歌山城を映し出す“水鏡”としての効果を考慮して造営された。建物と人工池が一体となった作品で、建築評論家は「(県は)設計者の意図を理解していない」と批判している。

 同館は総工費約138億円をかけて平成6年に完成し、玄関前に約3360平方メートルの人工池が造られた。黒川紀章建築都市設計事務所(東京都)によると、隣接する和歌山城の景観を生かすため、アルミなどの金属素材を使いながらも建物の屋根を和風のひさしにしたり、街灯を灯ろう型にしたりして、日本の伝統的な美を表現した。

 人工池もその一つで、水面に映る和歌山城を楽しめるほか、中央部には能舞台が設けられており、薪能が上演されれば、水にゆらめくかがり火で幽玄の世界を表す工夫がなされている。

 しかし、水を流す電動ポンプを動かす電気代が月額約40万円かかるため、県は開館から約4年後に流水を停止。以来、特別展開催期間の週末など年間20日程度水が流されるだけになった。また、灯ろう型の街灯は8基すべてが終日消されたままで、5基ある行灯(あんどん)型の街灯も2基が消灯されている。

 県財政課は、県全体で経費削減をしている中で、美術館だけを特別扱いできないとの立場。同美術館の浜田拓志・教育普及課長は「(仁坂吉伸)知事は文化施設は切り捨てないというが、さらなる削減もありうるのではないか」と施設の存続にも不安をのぞかせる。

 黒川氏の事務所は施設の管理運営方法について特に要望はしない構えだが、黒川氏の長男で同事務所代表の未来夫(みきお)さん(43)は「(黒川氏は)建築中何度も足を運び、完成後も国内外から多くの著名人を案内するほど思い入れがあった」と話し、当初の設計に沿った運営がされていないことを残念がる。

 建築雑誌「a+u」の元編集長で、黒川氏とも親交が深かったという建築史研究者の中村敏男さん(76)は「和歌山県は設計者の意図が理解できていないのではないか」と憤っている。



巨匠の残像