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春の陽気に包まれた休日が、突然の激しい揺れで暗転した。25日、石川県能登半島沖で起きた大地震。震度6強の揺れが襲った同県輪島市では、1人が犠牲になったほか、古い家屋が倒壊し、避難所で一部の住民は不安な一夜を過ごした。孤立する集落もあり住民は避難。一方、同県七尾市の和倉温泉では休業する旅館が続出、春の観光シーズンを迎えての不安も広がった。
 ◇死亡の女性、倒れた石灯ろうで胸強打 
 輪島市では、死者1人、重傷8人、軽傷49人、家屋の全壊37棟、半壊68棟と大きな被害が出た。(午後9時半現在)
 死亡したすし店手伝い、宮腰喜代美さん(52)は、輪島市鳳至(ふげし)町上町の自宅の中庭で、倒れた石灯ろう(高さ約2.5メートル)で胸を強打した。近所の男性の車で病院に運ばれたが、死亡した。この男性は「ご主人が助けを求める甲高い声が聞こえた。救急車を呼んでも来なかったので、ご主人と車で運んだ。その時には、呼びかけても応答がなかった」と話した。宮腰さんは夫と自宅を兼ねたすし店を営んでおり、近所の主婦(74)は「働き者で気の優しい奥さんだった」と話した。
 住宅が密集する同市鳳至(ふげし)町や堀町などでは多くの建物が倒壊。耐震性の弱い老朽化した木造建築が多く、間一髪で難を逃れた住民たちは「命が助かっただけでもよかった」と声を震わせた。
 鳳至町の風当シサ子さん(59)の自宅は、1階が完全につぶれ、2階屋根が地面に触れるほどの状態に。当時、2階の作業場で輪島漆器を磨いており、「日曜日だったが仕事が立て込んでいたので2階にいた。下にいたら助からなかった」。
 堀町5の土木業、中前隆一さん(48)の自宅は、建物の1階駐車場がつぶれ、2階の床が駐車場にあったダンプに乗った状態に。当時、2階には妻幸子さん(47)と、中学2年の三女夕貴さん(14)がいた。こたつの中に逃げ込んだ幸子さんは「揺れの途中、床がストンと落ちる感じがしたが、まさか1階がつぶれているとは。ダンプがなかったらどうなっていたか考えるとゾッとする」と話した。

 河井町の輪島塗製造販売業、久保田八重子さん(72)の自宅兼店舗では、店舗のガラスが割れ、柱も傾くなど大きな被害を受けた。揺れが収まり外に出ると、向かいの木造2階建て民家が完全に倒壊。70代の女性が一時生き埋めになったという。久保田さんは「揺れを感じて動けないまま、とても長い時間に感じた。不景気で輪島塗の仕事も大変。(被災者の支援を)国で何とかしてほしい」と話した。
 ◇病院には70人超える被災者 大半の職員自主的に出勤
 同市立輪島病院(山岸町)には、骨折ややけどなどで70人を超える被災者が次々に運び込まれ、9人が入院した。
 臨時の診察場所になった1階ロビーでは、非番の医師が診察を行うなどした。同病院の中道秀治事務長は「電話が一時つながらなかったが、240人の大半の職員らが自主的に出勤した。これほど多くのけが人が運ばれるのは初めてだ」と話した。
 やけどで搬送された同市門前町の主婦(63)は「突き上げられるような揺れを感じ、台所の椅子から転がり落ちた。ストーブの上から倒れてきたやかんの湯で、右足をやけどした」と話した。主婦は95年の阪神大震災当時、神戸市垂水区に住んでいた。「神戸の時ほど揺れは大きくなかったが、当時を思い出して怖くなった」と語った。
 病院1階ロビーには、搬送されたけが人の名簿が張り出され、名前を探す家族の姿も。金沢市から駆けつけた女性は、妹の名前を見つけ「連絡が取れないので、病院に来た。何も分からないので、心配です」と話した。
 輪島市河井町のふれあい健康センターには25日夜、200人以上が身を寄せた。同市鳳至町の船本百合子さん(86)は「1人暮らしで、自宅にいても不安だが、ここなら安心」と近所の友人と顔を見合わせた。地元の町内会長で漆器業、大谷隆重さん(68)は「年寄りが多いので、これから体調を崩さなければいいのですが」と話した。
 同市門前町の門前会館にも200人以上が避難。近くのパイプ製造業、天井現三さん(54)は「家で寝ていたらタンスが足に倒れてきた。頭に当たっていたら死んでいた。家は半壊で会社の建物も倒壊した。しばらくは家に帰れず、仕事にもならない」と肩を落とした。七尾市や志賀町、穴水町などの避難所にも多くの被災者が詰めかけた。
 一方、避難所への医療支援も始まった。約500人が避難した輪島市門前町道下の諸岡公民館では、福井大医学部の救急医療チーム「DMAT」が高齢者や慢性疾患を抱える被災者の診療に当たった。
 ◇酒蔵ではタンクから酒あふれ、地酒割れる被害 
 輪島市は奥能登地方の酒どころとして知られ、酒蔵も点在する。「奥能登の白菊」で知られ、1722年創業の「白藤(はくとう)酒造店」(鳳至町上町)では、激しい揺れで蔵のタンクにためていた酒があふれ出たほか、貯蔵庫にあった地酒のビンの多くが割れるなど大きな被害を受けた。
 蔵の床には割れた瓶の破片が散乱。土壁がはがれ落ち、隣家の壁が透けて見える状態だ。23本ある高さ約2.5メートルの貯蔵タンク(約4000リットル)からも大量の酒があふれ出たという。
 貯蔵庫にあったのは、出荷を待つ約1500本の1升(1.8リットル)瓶で、2日前に瓶詰め作業を終えたばかり。同店経営の白藤妙子さん(56)は「被害額は想像もできないが、とにかく元通りの生活ができるように片付けを優先したい。けががなかっただけ良かった」と疲れた表情で話した。