真嘉戸井(まかとぅがー) | 沖縄の裏探検

真嘉戸井(まかとぅがー)



八重瀬(やえせ)町字新城(あざ あらぐすく)集落に遺老説伝(いろうせつでん)という文献にある綺麗な水が湧いたと伝わる真嘉戸井と呼ばれる泉跡があります。


保育園の横の道から集落の中に入ります。この道を進んだ左角に真嘉戸井があります。


民家の一角に案内板と三角に型どられた小さな広場があります。これが真嘉戸井です。昭和初期頃まで使用されたという事です。


周りとは少し凹んでいます。現在は土砂が入り込んで埋まっているとの事です。


ブロックで囲いがされていてコンクリート製の香炉が設置されています。

遺老説伝によると、真嘉戸井は近くにある新城グスクと新城村の水源として古くから使われていました。
新城村では旧暦5月15日の稲穂祭(五月ウマチー)と旧暦6月15日に行われる稲大祭(六月ウマチー)の際に3日前から準備をして泉の水を使って神酒を作り五穀神に供えました。

新城村に住んでいた真嘉戸は神酒作りが上手かったので主人から神酒作りを命じました。
真嘉戸は早朝から夕方まで甕を担いで何度も往復しましたが、とうとう疲れ果てて泉に甕を放り出して泣き出してしまいました。

そこに白髪の老人が現れて訳を聞きました。
真嘉戸は『稲大祭の前なので神酒を作る為に何度も何度も水を汲んで心身とも疲れて嘆いて泣いるのです』と答えました。
老人は真嘉戸の名を聞いて『あなたは間切(まぎり、現在の市町村)の長の所に行って具志頭間切(ぐしちゃんまぎり)のウマチーは稲穂祭だけで良いと伝えなさい』と言いました。

続けて老人は『この泉は真嘉戸井と呼んであなたに与えよう。そして家の門を出る前に、"真嘉戸井の水は舞う様に湧き出す"と唱えなさい。そうすればあなたは禍や災難に遭う事無く多幸な一生を終えるであろう』と言って雲に乗って消えました。

それから具志頭間切では稲穂祭だけが行われるという事です。現在は旧暦1月3日と稲穂祭に五穀豊穣の祈願がされています。
人名に『真』という漢字が使われるのは高貴な身分が多いので、真嘉戸はこの地域の高貴な家の娘であったかも知れないという話もあります。

また赤子の健康を祈願もされていて、男児は『銀黄金四枚の鍋、八枚の鍋の主なしみしょり、生まれ肌、勝れ肌、植木の肌なしみしょり』と唱え、女児では『銀黄金四枚の鍋、八枚の鍋の主なしみしょり』と祈ります。

農繁期において特に5月と6月ウマチーという行事は人手やお金がかかる上に、神酒を作ると畑仕事や山仕事、針仕事を禁じられ、もしその禁を破ると蛇に咬まれると伝わります。
そうした煩わしさからかウマチーは一回でいいとされる伝承は他地域にもあります。

こうした伝承の裏に農村や農民の苦労が見えてきそうです。