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あらすじ
天正四年(1576年)熱田の宮番匠、岡部又右衛門は、織田信長から、安土に五重の城の建設を命ぜられた。
又右衛門は即座に引き受けたが、城造りを指揮する総棟梁は、名だたる番匠たちとの指図(図面)
争いで決めると言う。
さらに広く世界に目を向けていた信長は、当時日本にはなかったキリシタンの大聖堂のように、
天井まで吹き抜けの城を望んだ。
一世一代の大仕事を前に一致団結し盛り上がる岡部一門の番匠たち。
夢のような城造りを前に、苦悩し、寝食を惜しんで指図作りに没頭する又衛右門を支える妻、田鶴。
そして、一人娘の凛も、又右衛門の勝利をただひたすらに願った。
指図争いの席、競争相手の番匠たちとは考えを異にして、又右衛門は吹き抜けにしなかった。
意向に逆らった又右衛門に、激昂する信長。凍りつく指図争いの場で、又右衛門の番匠としての譲れぬ
信念と誇りが信長を揺り動かした。
「岡部又右衛門が、総棟梁じゃ!」
やがて、大和六十六州の職人たちが安土に集結し、前代未聞の巨大な城造りが動きだした。
“安土桃山時代版プロジェクトX”ともいわれているこの「火天の城」昨日レイトショーで観て来ました。
織田信長が重要人物であるにも拘らず、合戦シーンが一切無く、安土城という幻の巨城を造る
職人達やその棟梁である岡部又衛門に焦点を当てており、その今までにないアプローチが
とても新鮮です。
自分の意向に従わない又衛門(西田敏行)に対して激怒する信長(椎名桔平)
自分が用意した雛形(一番左)とライバルの用意した雛形に火をつけ、吹き抜け構造の危うさを指摘する
又衛門。施主の意向に逆らってまで自分の信念を貫く様シビレます。
物語序盤の山場が、指図争いで信長の意向である吹き抜けの天主を拒絶した又衛門と信長のやり取りです。
自分の意向を無視した又衛門に対して激怒した信長に、又衛門は自分とライバル達が用意した雛形
(完成予想模型)に火を放ち、その様を見せながら
「吹き抜けにすると炎の道が出来てしまうため焼け落ちるのが早くなる。お屋形様の命を守る
建物を造らなければならぬ自分には吹き抜けの建物など造れない!」
と命がけで訴えます。命がけで施主の意向に逆らった又衛門も見事ながら、
「又衛門の造る城なら、落城するにしても舞をひとさし舞う余裕があるな!」と粋な
台詞でそれを是とする信長の姿勢もとても粋です。
この信長の様は自分の考えに固執せず、理があればそれを認める信長の合理的な思想が
良く表現されていていいシーンだったと思います。
又衛門と妻の田鶴(たづ=大竹しのぶ) 田鶴と娘の凛(りん=福田沙紀)
又衛門の家族は妻の田鶴(たづ)と娘の凛(りん)。しかし西田敏行と大竹しのぶの夫婦役と
大竹しのぶと福田沙紀が母娘というのはいいのですが、西田敏行と福田沙紀が父娘というのは...。
「父娘というより祖父と孫娘じゃね?」と鑑賞前は思っていたのですが、実際観てみても
やはりその辺は気になりました。でも話が進んでストーリーに引き込まれてしまうとそんなの
はどうでもよくなりました。田鶴は夫を支え、何時如何なる時でも微笑を絶やさない
芯の強い女性で、娘の凛も最初は城作りに熱中するあまり(これは信長から3年という期限を
守れなければ処罰すると言い渡されていたことも一因でありますが...)仲間や家族を
省みない(少なくとも少女の目にはこのように映っていた)父親に対して反発心を
抱いていたものの、次第にそうではないことを理解して父の又衛門を支えます。
そのあたりの家族とのふれあいは又衛門の心理描写の上でも結構ウエイトが大きく、見所です。
木曽の地で天主を支える親柱となる檜を探し回る又衛門と、案内役で杣頭の甚兵衛(緒方直人)
物語の中盤で又衛門は信長の許しを得て木曽の地に天主を支える親柱とするための檜を探しに
行きます。しかし木曽の地を納める木曽義昌は武田家に属しており、敵地同然。
義昌は甚兵衛に適当な木を見せて手ぶらで追い返すよう指示し、甚兵衛もそのようにふるまった
のですが、天下一の城を建てたいという又衛門の熱意にほだされ、また自分を
対等の相手として接してくれる彼に対してとうとう心を開きます。
甚兵衛が又衛門に心を開くきっかけとなったシーンで、焼きあがった一匹の魚を又衛門が半分ほど
食べた時点で甚兵衛に残りを渡す場面があります。このシーンでの西田敏行の食べっぷりったら...。
とても美味しそうに食べてて、非常に印象的でした。
このシーンで甚兵衛は最初「残り物などいらん!」と激怒するのですが、又衛門は決して残り物を
渡したのではなく、一つのものだから仲間と分かち合いたいという思いを伝え、それを理解した
甚兵衛との間に確かな絆が生まれます。
その翌日、又衛門はとうとう親柱とすべき巨木を見つけるのですが、甚兵衛は「それは伊勢神宮の
式年遷宮に使うご神木だ」と表面上は拒絶します。実際は義昌の部下にその場を見られていた
ためで、監視の目をごまかすために又衛門を殴りつけながら小声で
「大雨が降ったらこの木を届けてやる。大雨が降るまで待て」と又衛門に伝えます。
その後安土の建築現場に戻った又衛門は一日千秋の思いで檜の到着を待ち続けますが、
中々届かない檜に周囲の人々はあせり、又衛門に対しての風当たりが強くなります。
それでも又衛門は甚兵衛を信じて「檜は必ず届く」といい続けます。
このあたりはちょっと太宰治の名作「走れメロス」を彷彿させる場面です。
敵方に檜を届けた甚兵衛を尋問、処罰する木曽義昌。中盤のみどころの一つです。
そしてある日待ちに待った大雨が降り、待ちに待った檜が届きます。しかし、同時に届いた
甚兵衛からの書状には...。木曽義昌としては甚兵衛の気持ちは分かるにしても、敵方に
檜を提供した甚兵衛を処罰せざるを得ない。自らの手で甚兵衛を処罰しながらも
「手厚く葬ってやれ」という台詞をはく義昌。史実において彼の妻は武田信玄の娘なので
義昌は武田家の縁者なのですが、後の信長による武田攻めの際に織田側に寝返り、木曽家は一応
生き残ります。そんなことを知っていると、一層このシーンが皮肉に感じれます。
合戦シーンこそありませんが、美術的には非常に素晴らしいものがあります。兵隊の装備や
信長の衣装等見所はつきません。
賑わう安土城下を表現するワンシーン。みな非常に派手は格好ですね。
この映画には以外にもお姫様は全く登場しません。本来ならお姫様役のはず?な福田沙紀の
町娘姿がいい感じです。
そうした様々な困難を乗り越えて城作りは進んだが、ある日又衛門が異変に気付く。
地下蔵にある親柱の周り敷石が沈んでおり、親柱が天主を突き上げていたのだ。
このままだと梁が折れるか親柱が裂けてしまい、どちらにせよ天主の崩壊は避けられない。
又衛門は意を決して親柱を4寸ほど切ることを決意。しかしそれには梁と親柱を人力で
持ち上げねばならず、非常に困難を伴う。この一大事に又衛門配下の者はもちろん、女子供、
石工の者達まで駆けつけ、作業が始まった。縄をつかむ手は血で滲み、皆は何度も崩れそう
になるもその度にこらえ続け、まずは鋸で大まかな切断することには成功。
続いて又衛門が鑿を手に取り、敷石から浮き上がった親柱の底を削る仕上げに取り掛かる。
緊張感あふれる作業は明け方まで続き、作業を終えた又衛門が合図を送る。それを機に再び
縄は引っ張られ、親柱は4寸の隙間の分だけ下へさがり敷石の上に立った。成功!。
感極まった又衛門が叫ぶ。「お前たちこそ神の手じゃ!」と。
地下蔵は作業に参加したものの歓喜の声に満たされた。
これがクライマックスシーンで、あとは説明的ナレーションが少しあって映画は終わります。
これだけの苦労をして作り上げた唯一無二天下無双の城が、本能寺の変以後あっけなく
焼け落ちてしまう。信長は死ぬ前に舞をひとさし舞うという演出をよくされますが、
それは史実だったとしても安土城ではあり得ない。
安土城が現在となっては幻であるが故にこの映画には言葉で上手く表現できない思いを感じます。
何時の日か安土城の跡地を訪れ、この映画のシーンを思い出しながら思う存分散策してみたい
と強く思っています。