現在公開中のチェ・ゲバラの生涯を描く2本の映画「28歳-革命」と「39歳-別れの手紙」。
http://che.gyao.jp/
先日革命の方を、昨日別れの手紙を観ました。
彼の生涯を簡単に説明すると
・アルゼンチンの資産家の家庭に生まれる
・大学で医学を学び、在学中と卒業後に南米各地を旅する。その際に各地の
悲惨な状況を目の当たりにし、社会変革の必要性を痛感する
・フィデル・カストロと知り合ったことによってキューバ革命に参加。革命の英雄となる
・キューバを離れ、世界各地で転戦。ボリビアにて敗北し、処刑される
ということになりますが、やはりキューバ革命の英雄というのが世に一番知られている
一面だと思います。確かにキューバ革命によってあの国は革命前よりはましになった
のかもしれません。その辺は勉強不足なのであれこれ語ることはしませんが...。
そして間近の超大国アメリカのいいなりになることなく自主独立を保っている
といえば聞こえがいいのですが、実際は旧ソ連の援助なしには立ち行かなかった。
更に多くの亡命者も発生し、対岸にあるアメリカのフロリダ州は亡命キューバ人
が多い町として有名です。私の好きなミュージシャンであるグロリア・エステファンなどは
まさにそういった生い立ちの人で、“Mi Tierra(ミ・ティエラ。英訳するとMy Country)”
という曲では帰りたくても帰れない母国キューバへの切ない思いが歌われています。
そんなこんなで中途半端にキューバという国の知識があるため、私にとってのチェ・ゲバラ
という人物への思いは少々複雑なものがあります。
肝心な映画の内容ですが、“革命”のほうでは闘争に勝利したこともあり、仲間と再会しては
喜び抱擁しあうシーンが多かったのに対し、敗北した“別れの手紙”のほうでは終始
暗めの印象があります。戦闘シーンそのものは“革命”でのキューバでの方が場面も多く
派手にやりあってます。それに対し“別れの手紙”では兵の訓練に費やした日々の
描写が大半を占め、戦闘そのものはあまり描かれていません。
そもそも民衆の支持を得ることが出来たキューバでの闘争では全く見られなかった貧しい
民衆からの食料調達や民衆による政府軍への密告など、ボリビアでの闘争は全く成功の
見込みがないなということが2作とも観ていればすぐに分かってしまいます。
ボリビアでの敗北の原因として
・共産党の支持を得られず組織作りに失敗。その結果武器や食料等の補給を受けられなかった
・アメリカが本格的に干渉し、その指導によって対ゲリラの部隊が創設されていた
・民衆の支持を得られず、民衆は政府の言う“ゲリラ達はキューバからの侵略者だ”
というプロパガンダを信じていた
等が挙げられています。映画の中でゲバラが貧しい農家の主に「学校ができて
読み書きができるようになり、病院を作って治療を受けられるようになり、道を整備して
農作物や工業製品を自由に取引できるようになるのは素晴らしいことだろう?それを
実現するための戦いなんだ」といったことを語りかけるのですが、話を聞いている農家の主
は正直話の内容が理解できていない。ボリビアの山中という周囲と隔絶された世界しか
知らないため、自分達の境遇があまりにも悲惨であるということ自体が分かっていない
のです。
“世界をより良い方向に変えていきたい”というゲバラの熱い思いは空回りし、貧しい民の
ために戦っているはずなのにその民衆から敵視される。挙句の果てに戦闘中に捕虜となり、
人知れず処刑されたゲバラ。彼の行った武装闘争という手段は言うまでもなく現在では否定
されるべき手段であり、私自身彼のことを手放しで褒め称えることはできません。
しかし彼の生きた時代と場所では話し合いで平和的に解決するということが出来なかった
のも事実ではあります。後世に生きる私達としては、彼の思想やその闘争について
正確なことを知り、彼の失敗を学んだ上で“世界をより良く変えていく”というその
意思を継ぎ、武装闘争以外の手段でその実現に力を尽くす。それが旧時代のカリスマで
あったエルネスト・チェ・ゲバラという素晴らしい男へのなによりの餞ではないだろうか?
そういったことを考えさせられた2本の映画でした。