不倫相手は躁うつ病

不倫相手は躁うつ病

躁うつ病の不倫相手のお話。
いろんなことが巻き起こります。

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「□□って鬱のコじゃないの?」

嫁は俺の方を見ずに言った。

俺は何も言えなかった。

知ってたんだ。嫁は何もかも知ってたんだ。

「で?どうするの?」


「どう…って?」


「ウチら、このまま続けるの?」


「…」


「…」


3分くらいは沈黙が続いただろうか。

口火を切ったのは嫁だ。

「私は決まってるから。」


それまでは一切、俺の方を見なかった嫁だが、最後に俺の目を見ながらそう言って寝室に向かった。

今まで見たことがないような目だった。

その目で見られた俺はその場に立ち尽くすしかできなかった…。




次の日、俺は睡眠不足に加えて絶望感と恐怖感と…少しの期待感もあっただろうか。

とにかく仕事が仕事にならなかった。

日中は1時間おきにくる彼女からのメールが心安らぐ時間を与えてくれた。

しかし、仕事が終わる夕方が近づくと憂鬱な気分になる。

時間が経つにつれ昨夜の嫁の言葉や行動が現実味を帯びてきた。

自分で巻いた種なのは承知しているが…

怖い…  逃げたい…

「仕事終わったよ。逢えるかな」


とりあえず子供も起きてるだろうし修羅場なんて見せたくなかったから遅めに帰りたかったのと、彼女に逢いたい気持ちが強かったのがあって、彼女の住むアパートへ向かった。

彼女はいつもどおり

「おまたせ~」


なんてウキウキで出てきたが、顔色の悪さと態度が不自然な俺を見てすぐに察した。

「なんかあったの?」


「うん…実は… 遅かれ早かれ言わなきゃいけないんだけど…」


そこから俺は昨夜の出来事を全て彼女に話した。

しばらく黙って真剣に聞いてた彼女は話の終わりに口を開いた。

「○○はどうしたいの?」


「うん…嫁の気持ちは決まってるって言ってたから、たぶん別れるつもりだと思う。□□の名前も病気の事も知ってたから、大体の事は知ってても不思議じゃないよね。」


「なんで?どうやって知ったの?」


「さぁ… それがわからないんだ。」


「別れるの…?」


「うん… 今の段階ではまだなんとも…」


「○○の気持ちはどうなの?奥さんとこのまま続けるの?」


「だから、まだわからないんだよ」


「私の気持ちは言わなくてもわかってるよね?」


彼女は笑顔で言った。










その日から俺は、髪の毛が抜け落ちるんじゃないかってくらい、考え、悩んだ。

子供の事、仕事の事、家や車や貯金など財産の事…

いろんな事を考え、いろんな事を悩んだ。

今まで築いてきた家庭を捨てて、新たな女性のところへ行くのか。

それとも、夫婦間は冷めきっていても子供のため、と割りきって現状維持すべきなのか…

子供は愛しているが、パートナーの事を愛していないのは、いずれ子供にも影響してくる。

でも、一度きりの自分の人生だ…

できるだけ笑顔の時間が多いほうが良い。





決めた。

彼女と一緒に生きていきたい!

俺は腹をくくって、彼女とずっと生きていく事を選んだ。

愛している女性は彼女しかいない!

□□を愛している!

それだけは間違いない!




俺は嫁にその事を伝え、話し合った。

結婚してから…いや、嫁と付き合ってる当初から思い返しても、こんなにも話をしたことがなかったくらい、話し合った。

「これであなたを家で待つ事から開放される。」


「うん。ごめんな。」


その言葉が話し合いの最後の言葉になり、いろいろと制約や誓約があったが、お互いを信用して協議離婚となった。


家を出た俺は、真っ先に彼女に逢い、報告した。

「これで思いっきり□□を愛せるよ」


「私はこの日が来るのをずっと待っていたよ」


「うん… □□…ごめんな…。」


「○○…」


いつも密かに逢っていたあの夜景の見える丘で、俺と彼女はいつまでもキスをしていた。

誰に見られても文句は言われない。

彼女と一緒に居ることがこんなにも開けた気持ちになるなんて。

彼女が起こしてきた数々の事件や行動はここにつながる軌跡だったんだ。








最近の彼女は新しい薬を飲み始め、精神も落ち着いて穏やかな毎日を過ごしている。

婚姻届はまだ出していないが、準備が整い次第、役所に二人で行く予定だ。

俺は彼女のアパートから仕事に行く生活を送っている。

帰宅すれば彼女が待っているのがこれ以上なく嬉しい。

「婚約指輪はちょっと勘弁してね。  結婚指輪なら買ってあげるからさ」


「婚約指輪? なに言ってんのぉ! コレ!ずっと前にもらったじゃん!」


彼女は左手の薬指に光る指輪を俺に見せつけた。

以前、二人の旅行先のおみやげ店で買ったものだ。

「だって…それは○千円したやつ…」


「私はコレ以外は婚約指輪とは認めない!」


「安上がりだね…」


「値段じゃないよ」


「そうだね」


「でも結婚指輪は買ってね」


「あっ… ああぁ… うん…」


「安すぎると長持ちしないかもしれないし、高すぎだと生活できなきゃ困るからね」


「なに?さっきと違うこと言ってない?」


「いいの。でも給料の3ヶ月…」


「あーあ。やっぱりそうか…」


「ううん。給料の3分の1ヶ月分でいい」


「まぁ… それぐらいならなんとか…」


「やったー!」


「じゃあさ、そのかわりって言うのもナンだけど、今度からはゴム付けないからね!」


「当たり前じゃん!外だしもダメだからね!」


「パパぁ ママぁ なに騒いでんの?」


「あのね~ パパがさぁ…」


「おい!子供だ…」


彼女の腕を軽く引っ張った。

「指輪買ってくれるんだって!」


「あぁ…。そ… そうだよ…」


「きゃー!いいなぁ~!  てかパパぁ なにキョドってんの?」


「いやぁ まだ慣れなくて…」


この娘はなぜ血の繋がっていない男性の事をすぐに“パパ”と呼べるんだろう…。

住む空間が一緒だとは言え、最近のコはわからんね…



けど…

幸せだ…

彼女に出逢えて本当に良かった。

彼女からは人を愛するというすごく大切な事を学んだ。

じわじわと涙が出てくる。

こんな時の涙はガマンなんてするもんじゃない。

幸せ度が上がるから。

俺と彼女は最近、些細なことで泣いてばかりいる。

もちろん嬉し涙だ。

そして、お互い涙しながらいつもこう言っている。







「ありがとう」

















不倫相手は躁うつ病   完