前回はアメリカとメキシコの建設現場についてお話させていただいたのですがおかげ様でたくさんの感想をいただきました。特に米国の建築関係の法律についてもっと語って欲しいというご意見をいただきましたので今回は自分が日常業務を通じて理解している範囲で米国の建築の法についてお話できればと思います。メキシコも基本的に米国を真似しているところが多いので関連性はあると思います。

米国の建築の仕事をする上で避けて通れないのが法律です。アメリカは完全に法治国家で契約社会なので問題が起こればすぐに訴えて裁判となります。これは一般的な些細なことでもすぐに裁判になりますのでものすごい数の弁護士が存在します。
リベックという79歳のおばあちゃんがマクドナルドのコーヒーを買ってそれを膝にこぼして火傷を負って後、マクドナルドのコーヒーに欠陥があるとして裁判に訴えた話は有名ですよね。結局、3億円の損害賠償に勝訴したのですから事実関係なしに弁護士次第で結果が変わる世界です。
ですから一般的な会社はどこでも専属の弁護士を抱えていて問題があると外部の弁護士団を雇って専属弁護士がチーム作りをして裁判に臨むという形をとります。

問題が起こりやすい建築の世界も同様で、何かあった際に裁判沙汰になることを前提として自分たちを守っていかなければいけません。
当然、保険会社も建築設計専門、建設工事専門、生産工場ごとに分かれています。 裁判になった際弁護士費用もかなりの額になるのであらかじめ保険に入っておく訳です。
さて、裁判に勝つ、負けるかは契約の各責任範囲の中で法律に準じているかが問われますので各法律を熟知している必要があります。

話を建築の法律に戻します。
アメリカは州単位で自冶権があり各州が別々の国家であるかのように州ごとに法律が違います。ニューヨーク州建築基準法、カリフォルニア建築基準法、テキサス州建築基準法、…といったぐあいです。
ただし50州の州は国の建築委員会が作成したいくつかのガイドライン(指針)をチョイスし適当に修正し州法を作成しますので私どもはガイドラインをまず学習することになります。

15年以上前になりますが以前私が米国の業務を始めた際は建築基準に関しましては多く分けて3つのガイドラインがありました。
ニューヨーク州など米国東部から中部の州が採用したBOCA(Building Officials Code Administratorの略)という建築指針、 フロリダ州、テキサス州などの南部の州ではSBC(Southern Building Code),地震の多いカリフォルニア州などの西海岸ではUBC (Uniform Building Code)といった具合です。
プロジェクトがニューヨークならBOCA,テキサスならSBC,カリフォルニアならUBCにもとづき設計を行い、各州のBuilding official(州役所)に承認を得れば各州法を特に吟味する必要がありませんでした。(ただし、役人によっては重箱の隅を突かれる場合はありました。)

それでも3つのメジャーな指針を学ぶのはかなり面倒でしたが米人も効率が悪いということでそれらを統合するムーブメントがあり2000年にIBC2000(International Building Code 2000)という建築指針が発行されました。
IBCは3つの指針のそれぞれの特徴を完全統合したもので画期的なものでした。例えば、設計荷重を例に取れば、地域がら、BOCAは雪荷重が充実し、SBCはハリケーンなどに襲われやすいため風荷重、UBCでは地震荷重が専門的でしたがそれらの詳細な部分を見事にまとめあげています。 この指針後、IBCさえしっかり勉強しておけばどの州でも特に問題ないようになってきました。ただし、IBCはボリュームがかなりある上、3年ごとに大きく改定され続けているので結構大変ではあります。

またIBCの指針を良く見ますと、各専門部門ごとに別の指針を参照していることから全部を把握することはほとんど不可能ですので各専門分野だけを深く知っておく必要があります。
(IBCは一般的な指針です。専門分野ごとに別の指針が数多くあります。)
例えば住宅に関しましてはIRC(International Residencial Code),設備などはIPC(International Plumbing Code),防災についてはIFC(Internarional Fire Code)など無数にあります。

ちなみにアメリカだけの法律なのになぜインターナショナルという名前をつけるのか米人のメンタリティーをいつも疑っています。野球のワールドシリーズなんて名前もそうですが米人は自分たちが世界の中心という潜在意識が多かれ少なかれあるのではという気がしています。


ただ他の国で活躍している友人の話を聞いてみますとそれも一部あたっているかもしれません。 例えば中東で構造設計をしている友人はアメリカのASCE7(American Society of Civil Engineers chapter 7,米国のIBCが参照している荷重指針)の荷重計算で鉄骨はAISC(American Institute of Steel Construction,米国の鉄骨指針)、コンクリートはACI(American Concrete Instiitue、米国コンクリート指針)もとづき設計するように顧客から指定されることが一番多いそうです。2番めに人気なのはBS(British Standard)のイギリス建築基準だそうです。残念ながら日本の建築基準では受け付けてくれないので上記を学んでいるということです。
中国で働いている友人も米国基準で設計していることが多いと言ってました。
面白いのがブラジルでヨーロッパと米国の文化を両方受けたブラジルはユーロと米国基準をミックスした法律になっているようです。
建築の法律も国の力関係を反映しているのかもしれません。

さて、建築基準ではなく、工業製品に目を移してみますと日本のJIS(Japanese Industrial Standard)に対応するのがASTM(American Society for Testing and Materials、米国の工業製品規格法)で皆さんよくご存知だと思いますがこれはかなりの製造試験範囲を網羅しているだけでなく135カ国以上に採用されているそうです。採用している国に製品を輸出する際、それに対応するASTM番号の試験方法による基準を満たしているかどうかが問われます。
業者から聞いた話ですが同じ製品でも試験方法によって性能が全く違うのでどの基準での試験結果が非常に大切になってくるそうです。
製品の種類によっても全く違うそうですが一般的にASTMが最も厳し目にでて次にドイツのDIN(Deutsche Industrie Normen、ドイツ工業規格)、JISの順だそうです。そのためにASTMがもっとも信頼性があり採用されていると言ってました。
(もっともその業者はアメリカ人ですので話を半分くらいに聞いていましたが…)

それにしてもアメリカは指針の数は多すぎる国です。 これを一人の人が網羅することは不可能なため、各専門分野に分業させ、ライセンスで責任をもたせて専門化させているのだと思います。
もちろん、州ごとに法律が違いますので州ごとにライセンスが必要です。ライセンスをもった各専門の担当者が設計図面に判を押し署名し責任を負うことになります。例えば、建築図面には建築家、構造図面にはエンジニア、設備には設備士の担当者の州のライセンス印とサインが一枚一枚付けられます。これがないと役所が許可を出さないだけでなく、見てもくれません。
ところでニューヨーク州の建築免許はカリフォルニア州ではまったく使えません。州によってはお金を払い、書類手続きをすることで別の州のライセンスを切り替えてくれるところはありますが、通常は週の建築試験を受け直すことが多いです。 (特にカリフォルニア州は厳しい)
またライセンスを維持するために継続学習(Continuous Education)といって大学の単位のように指定期間の開催するセミナー、勉強会などに多く参加して一定以上のクレジットを常に取得していかなければいけません。
(これが結構厳しく、お金も時間もかかります。)
これによってライセンスをもった建築関連者のクオリティーが維持できているのだと思います。
ライセンスに関しましては別の機会にお話させていただきますが米国での仕事に興味のある方はまず、各専門分野のライセンスの試験合格することをまず目指していただければと思います。
アメリカで医療分野で働きたい友人が言っていましたが日本の医師免許はアメリカでは無視され(全く考慮されない)、米国の免許をゼロから受け直す必要があると言ってました。
建築も今のところ同様ですが近い将来、日本の建築技術を理解してもらい日本の免許が米国の免許に簡単にトランスファーされる日がくればいいなと思います。(少なくともクレジットとして認められれば‥)

今回は米国の法律の話をさせていただきましたがいかがでしたでしょうか? 次回はメキシコの話に戻りますのでどうぞお楽しみに!