寒き良き夜。 | Q05 quest

寒き良き夜。

「あのね、本当はスーパーに行こうと思ったんだけど、…寒くて。」

と、精一杯のしおらしい声で、私は言った。

「さみーな。何か食いに行くか。」と、彼が電話口で少し笑ったので、

私はほっとして、「すみません。」と冗談めかして謝った。



出先から電車で直帰してきた彼は、

自転車も、車の鍵も、会社に置いてきていた。

だから私たちは、歩いて近所の中華料理屋さんに行った。



昔ながらの狭いお店には、どんなに忙しくても、

お客には笑顔を見せる、素敵なおばさんが居た。

甘酢の肉団子がとても美味しかった。




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寒い、寒いと言っては、彼の腕に絡みついた。

本当に寒かった。

身を寄せる恋人がいる、というのは幸福なことだ。




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「最近、調子悪いの?」

と、彼が訊いた。

彼は、時々私の日記を読む。



「悪くない。戸惑ってるだけだよ。」と、前を向いたまま言った。

「すごく満たされてるけど、これでいいのかな、って思うだけ。」

シンプルな言葉でも、私が求めるだけの意味を、

彼はきちんと酌んでくれる。




「いいんだよ、それで。」



私は、彼の言葉の続きを待った。




「そういうのは、時期がくれば自然に湧き上がるもんだから。

 自分でどうこうするもんじゃないから。」




今はそれでいいんだよ、と彼は笑った。

「そうだよね。」と、彼の顔を見て、私も笑った。





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DVDを借りた。

トニー滝谷。



ソファに2人並んで、

「寒いね。」と言って、ベッドから掛け布団を持ってきた。



名古屋にあった彼の部屋に、二度目に行った時。

同じ毛布をかぶってテレビに向かった。

私はその時を思い出して、「懐かしいね。」と言ったけれど、

彼は、覚えていなかった。

あの時、私はすごくどきどきしていたのに。



悲しかったから、説明した。

観てたテレビ番組とか、その時の台詞とか。



「俺にそんな勇気があったとはな。」

と、彼が、少し恥ずかしそうに言うので、

私はいっぺんに幸せになってしまった。






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今日もこの人と眠れるなんて嬉しい。



私は毎晩、そう思う。

それは奇跡的なことだけれど、

本当に、毎晩。同じだけ感動する。




今日も一緒に眠れるなんて嬉しい。

もう、一人には戻れないよ。