裸の休日。
一日中裸で過ごした。
私も、彼も。
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朝起きて、シャワーを浴びた。
私はバスタオルを巻いた恰好のまま出ると、
彼はベッドで本を読んでいた。
私もその横に入って、昨日のつづきの本を読んだ。
―「Fly,Daddy,fly」
もともと彼が持っていた本。
映画化されて、予告編がこの間観たDVDに入っていた。
面白そうだったので、本を読んでみることにした。
そうして、金城一紀ワールドにどっぷりとつかっていった。
私と、それから、
昨日また『ザ・ゾンビーズシリーズ』を買ってきた、私の恋人も。
2人並んで、ベッドで本を読んでいた。
お昼前に「Fly,Daddy,fly」を読み終わって、
「お腹すいた」と、私がうだうだ言っていると、彼がパンを焼いてくれた。
いつもはダブルソフトなのだけれど、
今週は、彼が気まぐれに買った神戸屋の食パン。
耳が甘くてさくさくしていて、とても美味しい。
彼は、自分にコーヒーを、私には紅茶を入れてくれた。
それらは、平日の朝の、私の役割りだ。
こういう、彼の律儀な気遣いが、私たちの円満を支えてくれている。
そう思いながらパンを齧っていると、
彼はにやっとしながら、マーガリンの箱を指差した。
蓋が、開けっ放しになっていた。
「いっつもマーガリンの蓋開けっ放しだよ。」と、
ついこの間、私は彼に小言を言ったばかりだった。
「…あら。」と、私は笑ってごまかしたけれど、
彼は、勝ち誇ったような嬉しそうな顔をしていた。
愛しい愛しい、8歳年上の私の恋人。
それから私は、「SPEED」を読み始めた。
『ザ・ゾンビーズシリーズ』第三弾。
彼は、昨日営業中に本屋に寄って買ったらしい、
「レヴォリューションNo.3」を読んでいた。
本当はこれが第一弾なのだけど、私も彼も、
第二弾「Fly,Daddy,fly」
第三弾「SPEED」
第一弾「レヴォリューションNo.3」
と、スターウォーズ形式で読んでいった。
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夕方、彼はインスタントラーメンを作ってくれた。
「非常食」と言って、私が買っておいた、
サッポロ一番塩ラーメン。
インスタントラーメンの中で、
私はこれが一番美味しいと思う。
私が「SPEED」を読み終えたのは、午後の3時過ぎだった。
さっきまでページをめくっていたはずの彼は、
隣で、静かな鼾をかいていた。
「読み終わったよ?」と言ってキスをしてみても、
なんの反応もなかったので、
私は、少し迷ってから、
彼が読み終わったらしい、
「レヴォリューションNo.3」を手に取った。
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全部読み終わった頃には、外はすっかり日が暮れていた。
金城一紀はページが軽くて、温度がある。
普段は、時間が止まってしまいそうな、
微熱ほどの変化を味わうような本が好きなのだけど、
『ザ・ゾンビーズシリーズ』は、すごく良かった。
「山下」は、あれに似ている。
ノルウェーの森の中の、生真面目な学生。
なんていう仇名だったか、思い出せないけれど。
毎朝ラジオ体操をする、主人公と同じ部屋の男の子。
蛍をくれた…ああ、本当に思い出せない。
つまりは、世界に平和をもたらす、偉大な人たち。
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今日は、一日中、本を読んだだけ。
ご飯は全部、出来うる限りの努力で、
彼が食べさせてくれた。
私は一日中、ベッドでうだうだとしながら、
本を読み続けた。裸で。
明日起きたら、掃除をしよう。
食器を洗って、フローリングを磨こう。
と、こころに決めて。
パジャマを着てから、私は寝ます。
彼はもう寝ています。
グンナイ。