煙草と唾液の混ざった匂い。 | Q05 quest

煙草と唾液の混ざった匂い。

ずっと嫌いだった煙草の匂い。



自分では吸わない。

「体力が落ちる。」と、

まわり中の友達が吸い始めた時も自制した。

「煙草は嫌い。」と、

付き合う男の人にも容赦なく言っていた。




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たぶん、はじめは「きゃね」、かな。

学生の頃、代官山のモンスーンカフェで出会った。

背が低くて、とてもお洒落な同い年の男の子。

付き合う気はなくて、だけどすごく惹かれた。

きゃねも、私に抱いていたのは恋心ではなく、

「仲間意識」みたいな親近感だったと思う。




何度か一緒に寝た。

時々キスもした。




きゃねは、いつも煙草の匂いがした。

彼の銘柄は覚えていないけれど、

「煙草は絶対にやめらんねえよ。」と笑っていた。

灰を落とすとき、煙草をくるくると回して、

先を鉛筆みたいに尖らせる癖があった。

私はそれが気に入っていた。




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憧れていたのかもしれない。




都心で生まれ育って、

有名なカフェで働いて、

お洒落な服を着て、

野心も夢もあって、

一本筋の通った男の子。




「煙草はやめない」と、

笑いながら言うきゃねがひどく好もしく思えたし、

それを否定するのは、

彼自身を否定することのようにも思えた。






それから、

煙草の後のキスが、好きだった。




煙草と唾液の混ざった匂い。

体のずっと奥のほうを、

かすかに刺激される、甘い匂い。





今は、「煙草を吸わない男の人とは付き合えない。」

なんて、言ってみたりする。

自分では吸わない。

健全な体を保つことは、

愛する人と、その人の子供を守るための、努め。

だから、煙草のけむりは今でも嫌い。








煙草の、匂いは好き。

煙草と唾液の混ざった匂い。





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恋人の煙草を取り上げ、煙を吐かせて。

それからキスをしたくなる。

マルボロメンソールの甘い味。