テニスコートの熱。
若菜から電話があった。
声で泣いているのだとわかった。
私ほどでもないけれど、彼女もかなり涙腺が脆い。
「負けました…。」
今日は、秋季関東リーグの最終日だった。
私の母校は、負けてしまったらしい。
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応援に来て欲しいと、1週間ほど前に言われていたけれど、
新幹線で横浜まで行く交通費を考えると、
引っ越したばかりで無職の私にはかなり厳しいのが現実で。
私は若菜がすごく好きで、後輩として、本当に可愛い。
彼女の高校までの恩師には悪いけれど、
基本技術よりも先の、試合に勝つ術を、
彼女に教えたのは私だと、おこがましくも自負している。
もちろん、その殆どは自分の恩師からのうけうりなのだけれど。
大学で、同じコートに立っていた時、
彼女の打つボールの方向も、高さも、
それに込められた気持ちの揺れ方も、
きちんと正確に理解出来ていたと思う。
試合の最中も、終わった後も。
どんな言葉が適切なのか、
どうすればそこから前へ行けるのか、
私は、彼女と同じ熱さを持って、
それから冷静に、判断できた。
だけど、
電話じゃわからない。
泣きながら電話をかけてくる、可愛い後輩に、
私は何を伝えればいい。
テニスコートでの、緊張感や、恐怖を、
忘れてしまった私が。
ひとつ思うことは、
極めようと思ったものがあるのなら、
それを終える時はいつだって「途中」だと言うこと。
高みを見たと思っても、
見渡せばもっと高い山に囲まれてる。
死ぬまでやるか、
「途中」でやめるか。
そのどちらか。
「途中」でやめることの歯痒さを、
どれだけ軽減できるかは、
悲しきかな。
どれだけ、
情熱を失えるか。
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そんなこと、
教えないけどね。
どうか、
若菜の選手としての最後が、
晴々とした青空のようでありますように。