テニスコートの熱。 | Q05 quest

テニスコートの熱。

若菜から電話があった。

声で泣いているのだとわかった。

私ほどでもないけれど、彼女もかなり涙腺が脆い。


「負けました…。」


今日は、秋季関東リーグの最終日だった。

私の母校は、負けてしまったらしい。



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応援に来て欲しいと、1週間ほど前に言われていたけれど、

新幹線で横浜まで行く交通費を考えると、

引っ越したばかりで無職の私にはかなり厳しいのが現実で。


私は若菜がすごく好きで、後輩として、本当に可愛い。

彼女の高校までの恩師には悪いけれど、

基本技術よりも先の、試合に勝つ術を、

彼女に教えたのは私だと、おこがましくも自負している。

もちろん、その殆どは自分の恩師からのうけうりなのだけれど。



大学で、同じコートに立っていた時、

彼女の打つボールの方向も、高さも、

それに込められた気持ちの揺れ方も、

きちんと正確に理解出来ていたと思う。



試合の最中も、終わった後も。

どんな言葉が適切なのか、

どうすればそこから前へ行けるのか、

私は、彼女と同じ熱さを持って、

それから冷静に、判断できた。



だけど、

電話じゃわからない。



泣きながら電話をかけてくる、可愛い後輩に、

私は何を伝えればいい。

テニスコートでの、緊張感や、恐怖を、

忘れてしまった私が。




ひとつ思うことは、

極めようと思ったものがあるのなら、

それを終える時はいつだって「途中」だと言うこと。

高みを見たと思っても、

見渡せばもっと高い山に囲まれてる。

死ぬまでやるか、

「途中」でやめるか。

そのどちらか。




「途中」でやめることの歯痒さを、

どれだけ軽減できるかは、








悲しきかな。



どれだけ、

情熱を失えるか。




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そんなこと、

教えないけどね。





どうか、

若菜の選手としての最後が、

晴々とした青空のようでありますように。