強く賢く面白く。
彼が帰ってきたとき、私は笑っていた。
部屋着のワンピースを着て、
無印で買った太いヘアバンドをして、
ベッドに垂直に寝転んで、
両膝を曲げて脚をぶらぶらしながら、
両方の腕で頬杖をついて。
テレビを見て、声を出して笑っていた。
「ただいま。」
「おかえり。」
「なんか楽しそうじゃん。」
「だって劇団ひとり好きだもん。」
(テレビでちょうど出ていて面白かった。)
「なんだー。ちょっと心配してたのに。」
彼は心配していたらしい。
「今日も一日何もしていない。」と、
私が落ち込んでいたら、なんて言おうかと。
ドアを開ける前に少し考えたのにと、
それでも嬉しそうに言った。
「なんかフリーダムな感じだな。」
私は涙を流して笑っていた。
劇団ひとりが面白くて。
私はこころひそかに満足した。
彼が嬉しそうだったから。
やっぱりこれでいいのだと。
卑屈になれば悲しくさせる。
本当は少し、落ち込みそうだった。
彼の言うとおりの理由で。
前に進むことを、焦ることはない。
自分を充実させていれば、
物事はきちんとタイミングをはかって、やってくる。
そうやって、生きてきたもの。
強く。
賢く。
面白く。
今日出した結論が正しかったと、
彼の笑顔を見て確信する。
このひとに愛されてるうちは、大丈夫。
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「一緒に居る時間が足りない。」と言ったのは彼で、
「毎日一緒に眠れて嬉しい。」と、私。
いつの間にか、上半身裸で眠ってしまった私の恋人。
口を開けて、鼾をかいている。
酔っ払うといつも大きな鼾をかく。
こうやって見ると完全にオジサンだな、と。
8歳年上のその人を見て思う。
頬を撫でる。
シャワーもしないで寝てしまったので、
少しべたついている恋人の肌。
私はこの人が愛しくて仕方ない。