強く賢く面白く。 | Q05 quest

強く賢く面白く。

彼が帰ってきたとき、私は笑っていた。

部屋着のワンピースを着て、

無印で買った太いヘアバンドをして、

ベッドに垂直に寝転んで、

両膝を曲げて脚をぶらぶらしながら、

両方の腕で頬杖をついて。

テレビを見て、声を出して笑っていた。



「ただいま。」

「おかえり。」

「なんか楽しそうじゃん。」

「だって劇団ひとり好きだもん。」

(テレビでちょうど出ていて面白かった。)

「なんだー。ちょっと心配してたのに。」



彼は心配していたらしい。

「今日も一日何もしていない。」と、

私が落ち込んでいたら、なんて言おうかと。

ドアを開ける前に少し考えたのにと、

それでも嬉しそうに言った。

「なんかフリーダムな感じだな。」

私は涙を流して笑っていた。

劇団ひとりが面白くて。



私はこころひそかに満足した。

彼が嬉しそうだったから。

やっぱりこれでいいのだと。

卑屈になれば悲しくさせる。

本当は少し、落ち込みそうだった。

彼の言うとおりの理由で。



前に進むことを、焦ることはない。

自分を充実させていれば、

物事はきちんとタイミングをはかって、やってくる。

そうやって、生きてきたもの。



強く。

賢く。

面白く。

今日出した結論が正しかったと、

彼の笑顔を見て確信する。




このひとに愛されてるうちは、大丈夫。




::




「一緒に居る時間が足りない。」と言ったのは彼で、

「毎日一緒に眠れて嬉しい。」と、私。


いつの間にか、上半身裸で眠ってしまった私の恋人。

口を開けて、鼾をかいている。

酔っ払うといつも大きな鼾をかく。

こうやって見ると完全にオジサンだな、と。

8歳年上のその人を見て思う。




頬を撫でる。

シャワーもしないで寝てしまったので、

少しべたついている恋人の肌。

私はこの人が愛しくて仕方ない。