クツズレ | Q05 quest

クツズレ

この前、代官山で買ってもらったサンダル。

週末ごとに、いつも履いていたのに、

今日になって突然、靴擦れしてしまった。

親指の付け根の内側のあたり。



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電車の中で、唐突に涙がこぼれた。



私が悲しむことがあったとすれば、

靴擦れがひどく痛んだことと、

いつもよりも大きくて重たい荷物と。

恋人が迎えに来てくれていなかったことと、

それから電車の明るい蛍光灯が、

すでに化粧がくずれていた私にはつらかった。

そのくらい。



バランスが、とれなかった。

電車の中で、涙をふくことも出来ずに。

でもきっと、悲しい顔はしていなかっただろう。

勝手に、涙だけがぽろぽろ落ちた。

電車の中にへんな人がいる、と。

自分で自分のことをこころの中で思った。



ただ、すぐに会いたいと、それだけ思った。

私の中の、バラバラでぐらぐらしているものたちを、

あの細くてきれいな手で、支えて欲しかった。



駅の出口で、しゃがみこんだ。

靴擦れも、生理痛も、重たい荷物もぜんぶ。

ここにいない恋人のせいにしてしまいたい気持ち。

顔を見たら、私の口からどんなにか醜い言葉が出てくるだろう。


そう思ったら、また悲しくなった。



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私は立ち上がって、

裸足で自転車の後ろに乗った。

彼は私のサンダルをかごに差し込んで、

いつもよりもゆっくり自転車をこいだ。

「ねぇねぇ、裸足で泣き顔の女を乗せてるのって、怪しいね。」

と、私は目的もなく彼に言った。

口をついて出るはずの、醜い言葉は空に消えた。

ただ私は、なんだかひどく虚しかった。


「・・・大丈夫だろ。」と、彼は少し笑った。

信号待ちのたびに、振り向いて頭を撫でる。

私は自分が従順な犬になったみたいで、嬉しくなる。

「唄ってもいい。」と彼に許可をとってから、唄った。

夜の街を、裸足で自転車に乗りながら、大きな声で唄った。

こっこの歌。




たくさん涙を流したせいか、

頭の中に靄がかかっていて、羞恥心が麻痺していた。




彼は何も言わずに、ただ、いつもより少しゆっくり、

自転車をこいでいた。

私は、彼の背中に頬をつけた。