椎間板ヘルニアの手術をしたくないって男性

バンコックより
　
タイに俺を呼び寄せたのはこの男だった。
助けてください！
もう随分の間痺れは酷く歩くことも
運転することもできません。
だから仕事も出来ません。
仕事を休まずにいられません。
　
可哀想に。
俺はアメリカ横断ツアーの前に
タイによりこの腰痛を見てみたくなった。
痺れと腰痛。
なんて萌える言葉なんでしょう。
　
やって来た台湾系タイ人のマーク
コルセットが痛々しい。
シャツの上からコルセットをする
センスはオシャレさがないのではない、
そんなこと構ってらんないのだ。
　
俺も痛風のときは歩くのに必死で、
とても変な歩き方をしていると
知人によく指摘されるのだが
そんなのか待ってらんないくらい
必死で歩いているのだ。
　
楽になりたかったら一直線に突き進み
目的地まで行ってサッサと座るのが1番楽だ。
一直線に邪魔する障害物を俺は退かない。
足が痛いから一直線に出てくる障害物達は
俺の目が足の痛みで血走っているのか大抵どいてくれる。
足を引きずって血走った眼をしてるヤツが
自分に突っ込んで来たらヤバイと思うようだ。
まぁさ、それくらい痛すぎるともう脇目も
振らず一心不乱になるしかなくなるんだ。
　
とにかく彼はシャツの上から
コルセットして友達３人に
連れられて運ばれて来たんだ。
俺の腰痛研究所に。
　
さて、彼の腰痛の前に彼の歩き方は
まるで油の切れたロボットだった。
　
お辞儀してごらん、
「む、む、無理です」
10度傾けた時点でカツンととまり脂汗かいてんの。
後屈は痛いがある程度いける。
側屈も回旋もいけるけど痛い。
爪先立ちも踵立ちもできた。
　
ラセーグは10度で痛みが出てカラダを
仰臥位から丸めることは無理だった。
　
二言目にマークは
「僕はヘルニアなんだから無理させないで！」
だった。脂汗をかきながら仰向けに
ゆっくりゆっくりなっていく。
　
ヘルニアから来ている痺れなのかどうなのか
検査するにはKenポジションが有効だ。
試してみた。
　
痺れたままだった。
アレ？え？痺れてる？ウソン
　
じゃヘルニアかもね。
と言おうと思ったんだけど
ふと待てよって思った。
他のパーツの問題かも。
KYTアドバンスでよく言っている全身を
くまなく観察して解剖学的肢位に戻して、
ってのを自分で思い出しちゃったんだ。
　
で、脚先の変位を直してもう一度行うと
痺れが半分未満に減ったとマークは言った。
　
「これがKenポジションこれがメイドイン
ジャペーーンのヘルニアテストだ」
まぁ証明したのはアメリカなんだけどね。
　
「はぁ？」
マークは意味不明って顔していた。
　
「つまり俺が言いたいのはさ、これで痺れが
なくなっていく方向へ向かっているということは
ヘルニアの問題は関係ない可能性がある。
ヘルニアから来ている痺れならば
Kenポジションでも痺れが抜けないはずだからね」
「つまり？」
「つまり、マーク、君は良くなるよ」
「ホントですか？」
「多分ね」
　
そんな感じで始まったKYT
脂汗が大分マシになり仰臥位での
尻上げテストをさせても痛みがなくなり
回旋も側屈も痛みがなくなった。
　
ラセーグ（坐骨神経テスト）も
60度まで痺れなくなり
このまま治ってくれると思っていたところ
ラセーグ70度まで挙げてみたんだ。
で一旦痺れが強く出てから
また怖くなっちゃったのか
30度くらいで痺れるよになっちゃった。
　
でも解剖学的アプローチでKYTは成り立っていて、
そしてKenポジションにより痺れが
かなり軽減したことから俺は自分で
自分を信じて施術のシナリオ通り進めていった。
　
患者さんが傷みがぶり返して
アップアップ状態の時にこっちまで
パニクるともうどうしようもなくなるしね。
　
解剖学だけでなく経験値という
武器も非常に大事になってくる。
俺は遂にベッドの上での
痛みを全て取ることに成功した。
　
しかし立たせお辞儀させるとさっきまでは
10度いくか行かないかでビーーーんと
痺れが始まっていたけど
45度まだ痛みも痺れもなかった。
がそれ以上いくと痺れがあると言った。
　
俺はマークの背中の丸まりを
施術前から気にしていたんだ。
こういうパターンはベッド上で
痛みが消失しても立ったり運動すると
痛みがすぐにぶり返す。
　
これに関してはアドバンスセミナーで
行なったストレートネックの調整法で対応した。
彼は痛みなくお辞儀ができるようになった。
　
歩くと驚いたことにまだ20％痛いと
言って俺を悩ませたが今日はタイムアップ。
次の予定がありマークに
これ以上は今日は無理だと言った。
　
マークはといえば、
「Kenさん驚いているんです。こんなに
普通に歩けるようになったなんて」
　
そう言えば、さっきまではスゲーコルセット
巻いて固定して、しかも油の切れた
ロボット状態で歩いていたからね。
マークは納得して今日の施術を終え
コルセットをせずに友達達と帰っていった。
　
あと２割の痛みの見当は付いているんだけど
これがどうなるかちょっと楽しみだ。
　