この部分の日記は、ケロが1989.7~1992.2まで滞在した、アルゼンチンでの日記です。

  • はじめに
     今から話すことは、わたしが1989年7月から92年2月にかけて、フォルモサというアルゼンチンの片田舎で過ごした体験を、その前後の経過と、現況など取り混ぜながらまとめたものである。89年当時、わたしは一般企業で働くサラリーマンだったが、ちょっとしたきっかけ(気まぐれ? 気の迷い? 思い違い? 一大決心?)で、今で言う「海外ボランティア」に出ることになったのである。脱サラかあ、と思うとちょっとかっこわるいものだけれど。
     青白い顔をした日本のサラリーマンが、灼熱の南米で何を見て、何を考えてきたか、書き残しておきたい。確かに、日本ではなかなかできないような体験をしたと思う。
     出発前に、“参考図書”にしようと思って読んだ、向一陽『奥アマゾン探検記』(上・下)(中公新書)に、アマゾン探検をした人たちが、その後みんなで動物園に行ったら、そこにいた大半の動物をアマゾンで食べたので、檻の前で「これ、堅いんだよ」と言い合ったのだそう。同じような経験がわたしにもあって、檻の前で「これ堅くて」、というと心なしかその動物の目がちょっと不安げになるような気もしないではない。こんな経験日本では何かに役に立つかというと、話の種ぐらいにしかならないし、二言目には「アルゼンチンでは・・・」なんてやってると、感じ悪いだろうな、と思いつつ。
     しかしだからといって、この体験が今日本で生きている自分と無関係ではないし、あのフォルモサの人々は今もわたしに語りかけ続けているような気がする。アルゼンチンを離れてからもう16年。実は、取材先のある人から、「どこかにその記録を書いていないのですか?」とたずねられ、記録することが大切かと思った次第。
     さて、わたしは今までどこからきたのか、これからどこへ向かっているのか、白い紙の上に描かれた一本の曲がった直線を、じっくりとたどってみることにする。