夏の午後の日差しが、庭の木々に照りつけていた。蝉時雨の中、青々とした木々の葉が照り輝いている。


 黒木の家は、地元では有数の大地主だった。土塀を張り巡らされた敷地内には、東の端に蔵が、そして中央に母屋である重厚な造りの日本家屋、そして、その母屋の北側にひっそりと建てられた小さな離れがある。この離れは、東京から嫁いで来た母の強い意向により建てられたもので、比較的新しかった。母屋と違い、離れは全て洋間となっていた。一階はお茶を飲んだりする小さなサロンのようになっており、二階に客間が二つある。そのうちの一つを母が、一つを自分が使っているのだった。尤も、母も自分も、日中はほとんど母屋で過ごしているのだが。


 黒木はふと足を止め、廊下から、庭の向こうの離れを見た。窓は全て閉まっている。きっと部屋の中は相当暑くなっているだろう。そんなことを思いながらぼんやりと庭を見回していたとき、車寄せの方から、車が砂利を踏む音が微かに聞こえてきた。そうだ、父の新しい運転手が来るのだった。静子の言葉を思い出し、黒木は急いで居間に向かった。明るい陽光を映していた目は、暗い室内にすぐには慣れず、室内は緑がかって見える。黒木は瞬きをして居間に入った。出た時と同じ、ひんやりとした畳の感触。本は、テーブルの上に閉じたまま置いてあった。額の汗を拭いながら、本を手に取る。その時、視界の端を、何か、白いものがちらついた。黒木は反射的に目を上げた。


―おんな、の子?-


 先ほど入ってきた障子の向こう、開け放った廊下のガラス戸よりも更に向こう、庭の真ん中に、小さな女の子が立っていた。白い帽子に、白い半袖のワンピース。帽子の下からサラサラした髪が見える。黒木は本を片手に、目をこすった。幻覚だろうか?夏の、暑さゆえに?まさか、こんな真昼に幽霊などは出ないだろう・・・そう思った時、強い風が、女の子の帽子を飛ばしていった。


「あっ!」


 黒木も、少女も同時に叫んだ。が、相手の存在に気付いていた黒木と違い、少女は人の声が背後からしたことに、文字通り飛び上がって驚き、さっと振り向いた。


 先程まで耳にうるさい程だった蝉の声が、止まったように感じた。夏の午後の陽射しの中、まるで少女の立っている空間だけが切り取られたように、鮮やかな色彩を放っていた。透き通るような白い肌。サラサラと顔にかかる前髪。驚きの為に、ギュッと胸の前で握り締められた小さな両手。そして、自分を見つめている、おびえたような、それでいて、なぜか吸い込まれるような不思議な光をたたえた瞳・・・。


 この、おびえた小動物のような女の子に、何か声をかけてやらねばならない。けれど。声が、出せないのだった。覚醒する直前に見る、淡い夢のように。頭で思っても、体が、動かないのだ・・・。黒木は無言で少女と見つめあうしかなかった。その時。


「優奈!」


 玄関の方から響く声に、少女は弾かれたように振り向いた。


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