彼が襲われる、少し前。



小一時間ほど前のことである。





なぜ、彼が得体の知れないモノに命を狙われることになったか。






彼はただ、街中を走っていた。
そう、走っていただけだったのだ。






誰もイナイ、この場所をひたすらに。

ただひたすらに走っていた。





もしかしたら、既に別の何かに狙われていた可能性もある。




だから、彼は気づかなかった。





彼が走り抜けた、
正確には、その前を通過していたことを……。







降りしきる雨…。



彼が何かを叫んだとしても、
誰も気づかない。



いや、気づく人さえイナイのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが……。





ショーウィンドウに映る少女は、その腕を男の首へと移し、




締め上げる。





「ギュッギュッギュッギュッギュッギュッギュッギュッギュッギュッギュッギュッギュッギュッギュッギュッ…………」






何か、念仏のように唱えながら締め上げていく。





腕が自由になった彼、しかし締め上げから逃げようともがくが。



しかし、無駄だった。




そこには、彼しかイナイのだから。


更に締め上げる少女、そして…




ブシュッ!!



人から発したとは言い難い音と共に、鮮血が飛ぶ。



しかし、それが地面を染めることはなく、雨とともに流れていく。




しばらく止まっていた少女、しかし彼が無抵抗になったことに飽きたのだろうか。


「……ツマンナイ、エイッ」



と、まるで紙屑を投げるように、彼を投げ捨てる。





そして、鼻歌交じりに消えていく。





なぜ、彼がこのようなコトになったのか。


そしてこの少女は……。





その謎が語られるのは、また別のお話。

鏡奉り 完