雲
八木重吉
くものある日
くもは かなしい
くもの ない日
そらは さびしい
涙
八木重吉
つまらないから
あかるい陽のなかにたってなみだを
ながしていた
金魚
八木重吉
桃子は
金魚のことを
「ちん とん」という
ほんものの金魚より
もっと金魚らしくいう
赤ん坊が わらふ
八木重吉
赤んぼが わらふ
あかんぼが わらふ
わたしだって わらふ
あかんぼが わらふ
豚
八木重吉
この 豚だって
かあいいよ
こんな 春だもの
いいけしきをすって
むちゅうで あるいてきたんだもの
素朴な琴
八木重吉
この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかね
琴はしずかに鳴りいだすだろう
果物
八木重吉
秋になると
果物はなにもかも忘れてしまって
うっとりと実ってゆくらしい