シドニーでスマホとクレジットカードを落として路頭に迷う。落とした場所の近くのセブンイレブンの店長、バングラデシュ人のモハメドの助けで、この状況から立ち直る契機をつかんだ。シドニー中心街のホステルになんとか泊まることが出来た。最悪の1日を乗り越え、再起を図る。
モハメドと出会えたこと、わずか40ドルしか所持金がない自分にお金と食べ物を恵んでくれたこと、そしてこのホステルを紹介してくれたことは、非常に大きな手助けだった。ホステルでは朝ご飯が自由に食べられる、フロントのパソコンでネットが使えるという、今の自分にとってはありがたいどころか命を救ってくれるほどのサービスを提供してくれた。それだけでなく、たまたまそこに泊まっていた日本人2人に、携帯を貸してもらい、親に電話をさせてもらえた。さらに幸運なことに、事情を知ったフロントの人が、半月以上前に誰かが忘れていったものの、誰も引き取りに来ないまま捨てようとしていたというスマホをくれたのだ。そのスマホは古い機種でオーストラリアのSIMカードを使うことはできなかったが、ロックがかかっておらずすぐに開くことができたので、Wi-fiがあればネットで連絡を取ることが出来た。こうして唯一ログインできたTwitterのDMという細い糸が、少し太く信頼できるものになった。
この奇跡のような幸運で手に入れた連絡手段で、日本にいる親や友達に連絡した内容は、これも奇跡のような偶然でモハメドから教えてもらえた、パスポートだけで国際送金を受け取ることが出来るというサービスについてだった。実は帰りの航空機については、すでにメルボルン発のものを取ってあった。それに加えて、スマホを落とした2月8日から3日後、2月11日からその帰りの航空機の日までは、メルボルンのホステルをすでに予約していた。つまりはその日までにメルボルンにいて、帰りの日に空港にたどり着くことさえできれば、日本に帰ることはできた。本来の予定であればシドニーからレンタカーで、3日間のうちに車中泊しつつドライブしてメルボルンに行く予定だったが、日本の免許証も紛失してしまったのでそれはかなわなくなった。だけれども、国際送金を受け取れば、国内線でメルボルンに行くことができるので、オーストラリアで一文無し、連絡する相手もなしに路頭に迷うという最悪の事態は防ぐことができる状況だった。
親はすぐに対応してくれた。さすがにその日のうちに受け取ることはできなかったものの、日本でそのサービスを扱う営業所まで行ってくれて、送金の手続きを進めてくれているとのことだった。その日2月9日は、本来であればシドニーを観光するはずの日だった。しかし実際には、送金のサービスについて調べたり、親に連絡を取ったり、送金を受け取れた時にオーストラリアのSIMカードが使えるスマホを安く手に入れようと思い、それについて調べたりしているうちに、1日の半分が終わっていた。唯一ログインすることができたTwitterをなんとなく見てみると、自分がこんな窮地に追い込まれているにも関わらず、日本ではいつも通りの日常が行われていた。それを見るとなぜかほっとした。本当に悪夢のような状況だったが、きっとそのうちこの日常に戻ることができるんだよなと思えた。
常に緊張状態だったからか、この騒動が始まって以来空腹を感じたことはなかった。だが、エネルギーになるようなものを食べておかないと、この後また非常事態になったような時に、頭も体も動かなくなってしまうのは困ると思い、何か食べるために外出した。シドニーは大都市で、ゴチャゴチャといろいろなものが詰め込まれているような街だと思った。外国人街のような、様々な国の料理の店が立ち並ぶ通りがあったり、実際に様々な国の人がいたり。高級ブランドのショーウィンドウがあると思えば、そこからすぐ近くの路上に、お恵みを求める缶を置いた横で毛布を敷いて寝ている人がいる。「路頭に迷う」ことの具体的な姿を見てしまったと思った。送金が受けられることはわかってはいたが、その時はまだ安心できていない状況だったから、その姿にまた恐怖した。所持金が少ないので、おいしそうなお店に入ることもできず、スーパーに行って食べ物を探した。値下げされたマフィンを買ってホステルで食べた。この日食べたものは、ホステルの朝食とこの値下げされたマフィンだけだった。