今回は呆田太郎「餡パンおどり喰い」を紹介します。これは世間の欺瞞を告発する激烈におもしろい小説です。諸君は自動販売機の「あったか〜い」もしくは「つめた〜い」という文言に殺意を抱いたことがあるだろうか。なに、ある。それは結構。この小説を屹度気にいるでしょう。

 

試みに冒頭を抜き出してみましょうか。

 

 革靴をはいて旅に出たい。

 そんな事を思ったから、飄然と百貨店に参り黄白の代償としてコールハーンという所の高級の革靴を手にれた、という所までは良かったのだが、いかなる禍事か、履いてみるとどうも歩きにくいというのは靴と足が干渉、皮をずるずるにしてしまうからなんだ。このような事に悩む人民のために靴の革を伸ばす木製の枠、そして、柔らかレザースプレーなる化学的の液体というものが存在する。これらを用いる事で足に対して靴の大きさをガバガバにし足がスコスコに入るようにすることができる。

 このようにして靴をフィッティングをしていたために、なかなか旅に出ることが出来ず悲しい思いで拙宅に逼塞していたわけなんだが、旅イコール沢山歩くという図式が脳中へ浮かんで来て、足にフィットした革靴でも旅には不適なんだよという結論が思えそうになってきたので思えないようにするために泥酔したが駄目であった。だから、というのも悔しいが、革靴は止しにして尋常のズックで旅に出る事にした。

 往来を往来しているとまず目につくのは乞食達である。道路に沿ってびっしりと並んでいる。皆、煙草をふかしている。宿なしでも飯が食えなくても人間は煙草を吸わずにはおられないようだ。前はこんなに多くなかった気がするのだがね。最近は終わりきったような愚民が争闘を繰り広げており世情が不穏であるのだが、それと関係があるのかもしれない。まあ、俺はね、金があるからね。少しく腹が減ったから飯でも食おうかなあ。へらへらへら。拙者はパン屋に行ってパンでも食おうかな。

 ガリャリャラン、パン屋のドアーについておる不逞のベルが鳴って嫌だなあ。私はバタが嫌いなので、あまりバタが付着していないパンを食いたいと思う。餡パン、カレーパン、つまり甘いやつと辛いやつ、へ、へ、へこれがベストじゃわい。代銀を支払い外に出る私。

 

以上が引用である。なんて愚な文章だろうか。と、諸君は思うだろうが、そう思った諸君こそ愚である。これ、一見して小学生の、それも馬鹿のよりの小学生の作文のようであるが実は深淵なる哲学小説なのである。その内容は呆田太郎「餡パンおどり喰い」を最後まで読めば明らかになるので、是非読んで見てください。