ご両人ともおめでとう
東公平著「升田幸三物語」(日本将棋連盟発行)より全引用
升田名人に大山九段(王将)が挑戦する、第17期名人戦。
升田の健康状態はまずまずだし、王将位を奪われたことが、升田の性格からしてかえって良い方に作用するだろうと観測されていた。
第1局は、33年4月22日、東京・渋谷の「羽沢ガーデン」で開始された。
金子金五郎八段の観戦記から。
「私はふと前年の名人戦での両人の死闘を思い出した。升田は疲労が濃く精神力だけでようやく身体をもたせ将棋の鬼と化した。最後の第6局の日に私は升田の心情を思い心から祝福しながら、善戦して敗れた大山にも来年再びこの名人戦に雄姿を現わしてくれるようにという言葉をささげ、かつ祈ったのである。そこでまずこの観戦記の初めに御両人ともおめでとうと申し上げたい。升田名人の健康と大山前名人のカムバックを祝して――」
大山先番で相矢倉模様になったが、升田はこの日も新趣向を見せ、居玉のまま△7三銀から△6四銀と繰り出し、大山に2筋の歩交換を許し、△5五歩▲同歩△同銀とさばいた。
この将棋は「升田の名局」の一つだ。サワリの部分をご紹介しよう。
参考A図は、激しく戦った78手目。升田が△2八銀と打ち込んだところである。
この銀打ちの意図が、控室にいるA級棋士たちにもよくわからなかった。
以下▲4六銀打△3七銀成▲同玉△2五桂▲4八玉△5五桂▲同銀△3七角(王手銀取り)と進んだ。この時に大山が、数手先の升田の妙手に気付いていれば▲5七玉と逃げていたろうと後で言われているが、本譜は▲5八玉△5五角成▲4六銀打(参考B図)と進行した。
