へべれけ!コンバット004
津軽海峡を踊りながら渡って、1977年8月24日お昼前、生まれて初めて北の大地を踏んだ「へべれけコンバット部隊」は、函館市内観光を楽しんだのち、札幌へ。そこで待ち受けてくれたのが、おなじ7組の仲間、ヒロアキである。彼の実家は札幌市内でお米屋さんを営んでおり、そこで一宿一飯の恩義にあずかる手筈を、われわれはすでに旅程に組み入れていた。さすがは本場のうまさの生ビールとジンギスカン鍋をたらふくゴチになり、へべれけ部隊の腹は今後の旅への期待と同じように大きくふくらんだ。
しかし、翌8月25日の夜。風船のようにパンパンにふくれあがった幸せは、十数年後にこの国の経済を襲ったバブルの崩壊もかくやという勢いで、一気に弾け飛んでしまったのである。昨日の原稿の最後に記した「あの事件」こそ、のちに「へべれけ!ベリーロール」として裏早稲田史に刻まれることになった、クオヒコの悲劇に他ならない。
その悲劇の地となったのが、釧路である。前夜の札幌ヒロアキ宅での豊穣なる眠りから一転。寒冷の大地における最初の野宿に備えて英気を養おうと、われわれ4人はさっそく釧路市内を徘徊し、めざとく一軒の雀荘を見つけると、はやくも卓上の野獣と化した。この闘牌に誰が勝ち誰が負けたのか、もはや老朽コンピュータの記憶するところではないが、その数時間のちに我が身に起こった忌まわしい出来事は、たいへんな酩酊状態であったにもかかわらず、しっかりと覚えている。いや、忘れることができないと言ったほうが正しい。
雀荘を出た4人は、市内の酒屋や食料品店を回り、夕食の準備を整えた。日本酒の一升ビンを4本と紙コップ4個、魚肉ソーセージやサキイカやポテチなどの類。食い物はつつましくても、酒さえあればパラダイス。釧路駅前での小宴は、たちまちコンバットマーチを繰り出しての狂宴となり、右手を大きな動作で突き出すクオヒコの前方に見えたもの。それは、この駅前のスペースを通路と広場に区分する鉄の柵ではないか。
そのとき、衝動が貫いた。あいつを跳び越えたい! 理由は分からないが(そもそも青春のふるまいに理由などないのだ)、全身を稲妻のように貫いた衝動にまかせ、クオヒコは鉄柵めがけて走り出し、ジャンプ一番、へべれけベリーロール! 高さ1mくらいの柵だから20歳の青年に跳び越えられないはずはないのだが、なにせ「へべれけ」である。地面を蹴った「へべれけ左足」は、それ以外の全身を柵の向こうへ送り出したのち「へべれけ状態のまま」ハードルに引っ掛かり、柔道の受け身の着地をするつもりのクオヒコは、頭からコンクリートの地面へ落下。とっさに左手で庇ったが、グシャッ!
ハタチの成人式を迎えられぬまま脳挫傷でこの世を去るという、最悪の事態は免れたものの、左の上腕部に大きなダメージを受けてしまった。
しかし、それでも4人の狂宴は続いた。泥酔のおかげで、クオヒコは、これっぽっちの痛みも感じなかったからである。そうして、ようやく踊り疲れ果てた若者たちは、釧路駅の地下通路に寝袋を並べて就寝。
「いてーっ! いててててーっ!」 朝になり、アルコールが体から抜けていくのにつれて、この世のものとは思えぬ激痛が左腕を襲った。心配顔の3人に伴われ、市内の整形外科へ。レントゲンを撮ってもらうと、案の定、骨折だ。治療を受け、ギブスを施された左手を首から吊るし、鎮痛剤を処方してもらいながら、お医者さんに事情の説明を求められたので、正直に話すと、「バカだねー。どこの学校?」と追加のご質問。これには「慶応です」と答えといた。
それでも、左手ギブスのまま、歯を食いしばり、クオヒコは旅を続けた。懸命にバイトして貯めた8万円を、無駄にしたくなかったからね。たとえこの腕が一生使えなくなったとしても、絶対に北海道を一周してやる!と。
翌8月26日は、阿寒湖へ行き、川湯ユースホステルに宿泊。だが、シャツの上からガチガチにギブス固定状態のため、風呂に入れず、シャワーすら浴びることができない。翌27日は、美幌峠から釧路を経由して、納沙布岬へ。野宿だから、当然風呂なし。24日の札幌ヒロアキ宅宿泊以来、入浴どころか下着の一枚さえも替えていないクオヒコの全身は、否応なく大腐臭を放っていた。
ここに至っては、鼻をつまみながらも「がんばれ」と言ってくれる仲間たちの好意だけはありがたく受け取り、まだ見ぬ北方大地への夢は捨てて、ついに翌8月28日、あの釧路駅から、ひとりクオヒコは帰京の列車に乗った。別れゆく3人が、車中の慰みにと、エロ漫画誌を数冊、持たせてくれた。
鉄道→連絡船→鉄道と、来た道を帰ること、30時間。行商のおばちゃんからリュックを荷棚に乗せてもらうなどの情けを頂戴しながら、ようやく東京都新宿区喜久井町の四畳半に帰り着いたクオヒコは、下宿屋のおじいちゃんに鼻をつままれながらシャツをハサミで切ってもらい、ギブスにビニールを巻いてもらい、念願の銭湯へ。さらさらのお湯に全身を浸かった自分が、あのときどういう気持ちでいたのかは、もう忘れてしまった。
ちなみに、マサヒコ、カツヒコ、ユズルの3人は、あれから釧路→原生花園→サロマ湖→旭川→層雲峡(ストリップ見物付き)→利尻島→稚内→札幌→上野(9月4日着)と予定通りの旅を進め、クオヒコの分まで北海道旅行を満喫してくれた。「原野に美女を押し倒す」目標は、果たせなかったそうだが。
最後に、読者の皆さまへアドバイスしときます。「飲んだら、跳ぶな」。
1月4日の連載スタート以来、ここまで快調に書き飛ばしてきましたが、本業のほうが忙しくなってきたので、ほんの数日間だけ、お休みをくださいませ。読者の皆さま、再開をお楽しみに!(クオ)
つらい……
牛にも笑われるし……
それでも男!ちゃかちゃちゃっかちゃん♪



