高志は五十を過ぎてからお酒が殆ど飲めなくなっていた。

「今日で八月も終わりじゃ。ほいじゃが暑いのう、嫌になるでよ」

 昼間から会合があってお酒の席があったのだ。

「昼間から飲みたくもない酒を飲んでいるので高志は機嫌が悪い。夜は夜でまた別の宴会があるのだ」

 高志は京橋川のほとりのベンチで酔いを醒ましていた。

「おにいさん一人」

 四十くらいの女性が高志に声をかけてきた。

「わしはおっさんじゃ」

 この高志の言葉に、

「いいやおにいさんじゃ」

 高志はからかわれていると思い、

「何が言いたいんない」

 と荒っぽく言葉を返した。

「うちゃあ、あんたに一目惚れしたんよ」

 女性は高志に食い下がってくる。

「うるさい、あっちに行けえや」

「いいや、おにいさんのそばにおる」

 押し問答が続く。