「映画 ラストエンペラー」
「次の者、入りなさい」と、廷吏が叫ぶ。
呼ばれて、ゾロゾロと入って来たのは、
中学生と思える男子生徒の一団だった。
「思い出の渚 ザ・ハンダース」
「たくさん来たなあ。
この者たちは、なんだ?」
「彼女の息子の同級生です。
この者たちに、いじめられたことが、
彼女の息子の〇の、
直接の原因です」
「映画 メン・イン・ブラック インターナションル」
「またかぁ...?」
検閲官は、頭を抱えた。
「映画 トータル・リコール」
「そもそも、夢の役割の中でも特に大切なのが、本人に
安眠を続けさせることなのだ。お前たちに
彼女の夢の中へ出ていかれたら、
彼女、怒りはじめて、
たちまち、目を覚ましてしまうじゃないか!?」
「映画 からかい上手の高木さん」
「そんなこと言われたって...。」
中学生たちが、顔を見合わせる。
「衝動さんたちから、呼び出されたんだもん。なあ」
「映画 8番出口」
「こんなに、たくさんでは、
いちいち歪曲したり、
すり替えたりしてはおれんな?」
検閲官は、書記に尋ねる。
「映画・東京島」
「うまい具合に、彼女が1人ひとりの顔を
憶えてはいなかったらしく、こいつら皆、
同じような顔をしておる。
圧縮するか、ひとまとめにして
象徴化してしまえる、いい手はないか?
何かこのう、たった1つで、
こいつら全員を暗示できるものだ」
「映画 ブドウ畑で離さないで」
「以前、彼女が息子の学校へ授業参観に行った時」
大腸を観ながら書記は答える。
「彼女が立っている教室の、いちばん後ろから、
席についている生徒たちの、ずらりと並んだ丸刈りの頭を見て、
まるで黒いトウモロコシのようだと、
感じたことがあります」
「ようし、お前らすぐ、くっつきあって、
トモロコシになれ!」
検閲官は叫んだ。
「黒いトウモロコシだ。
そんなものが夢に出てきても。
まさか彼女、お前たちとは思わんだろう?」
「でも、黒いトウモロコシって、
腐ってるんじゃないかなぁ...?」
「映画 大脱出」
備考:この内容は、
1990-4-20
発行:新潮社
著者:筒井康隆
「夜のコント・冬のコント」
より紹介しました。