山口百恵「蒼い時・裁判」...その2 | Q太郎のブログ

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パクリもあるけど、多岐にわたって、いい情報もあるので、ぜひ読んでね♥
さかのぼっても読んでみてね♥♥

 

あの日から3年経った今も、まだ解決を

見られず、私を含めて8人が証人喚問のために

出廷を要求され、すでに3人が

証人喚問に座っていた。

 

 

 

 

 

それぞれの様子は、翌日の新聞等で伝えられたが、

それらのいずれも好奇的な記事ではなく、

慣れない場所に立って、うろたえてしまった

有様だけを、いかにも芸能人の勉強不足と言わん

ばかりの書き方をしていた。

 

 

落ち着いて考えれば、

芸能人でなくとも、いきなり法廷という

特殊な環境に立たされたら、

うろたえないほうがおかしい。

 

 

 

 

 

私のことも、明日の新聞に書かれるのだろう。

そんなことを考えながら家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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外は春の割に、肌寒い感じがあった。

 

外気に全身が触れた時、背中に母の声を聞いた。

 

 

 

「大丈夫。終わったら電話するから...」

 

 

 

いつもと変わらない私に、母は安心したようだ。

 

 

 

 

 

車は、日比谷を抜けて東京地裁へ近づいて行く。

 

行き交う車の中に、私の胸中を知る人は

いない。何台もの車が規則正しく通り過ぎてゆく。

 

 

みんな必●で、自分のために生きている。一部で

大騒ぎをしていても、関心も関係もない人たちの

ほうが多いのだ。そう思うといくらか心が軽く

なった。クルマは進む。

 

 

 

暗い空だけが、どんより低く

垂れている。土の匂いもない氷ったような都会の

アスファルトが、無情な時の流れ そのもののようで、

私は、思わず瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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クール、冷静沈着、年齢にふさわしくない落ち着き...

 

それらは、”芸能人・山口百恵”を語るときの

パターン化された修飾語であった。

 

 

 

日頃、そう言われていることに、私はあまりいい感情を

抱いていなかったが、今日ばかりは、この定着した

イメージを大いに利用させてもらおうと決めていた。

 

 

 

被告側弁護団の5人も、おそらく私に対して

同様の先入観を持っていることだろう。

 

 

もし、そうであれば、彼らも心してかかるはずである。

 

ここで、大切なのは、相手方と同一線上に並ぶこと

である。同じ線の上に並べたら、精神的に

ずいぶん楽になる、会話は、それからのことである。

 

 

私は、今日一日、イメージの中の”芸能人・山口百恵”を

演じきってみようと決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山口百恵のテレビ番組出演情報 - タレントweeker

 

 

耳を塞ぎたくなるようなシャッター音と、

私にコメントを求める声の真っ只中に車は停まった。

 

光と音の洪水にも、私の心は平静だった。

私は、小走りに音の波を抜けてゆく。

 

壁から境目がなく

そのまま続いている天井にコツンコツンと規則正しい

靴音が響く。

 

閉ざされた重い扉を右に

見ながら、男たちの靴音に追われるようにして、

私もまた、しっかりとした足どりで歩いて行った。

 

 

 

「1時間半か、長くても2時間あれば

終わるでしょう、大丈夫ですか?」

 

 

 

誰かが、投げかけた。心のかけらもこもっては

いないような言葉に、私は

 

「ええ」とだけ答えて、

逆にその人の目を、真正面から見つめた。

 

 

意味のない笑いを交わし、それから、窓の下に広がる

都会を見た。

 

さっきと変わらない曇り空。

 

まだ、外は肌寒いのだろうか...? 

 

 

 

 

 

備考:この内容は、

昭和58-12-28

発行:集英社

プロデューサー:残間里江子

著者:山口百恵

「蒼い時」

より紹介しました。