「レイダース/失われたアーク」(1981年)
80年代に制作された「インディ・
ジョーンズ」シリーズ3作品の時代背景は、
いずれも、1930年代である。
ドイツでは1930年代にアドルフ・ヒトラーが
首相に就任し、1945年まで、ナチスドイツによる
国家統治が続くこととなった。
1936年のエジプトを、主な舞台と
する「レイダース」では、旧約聖書に
記された(アーク)を巡って、その力を
軍事利用し、世界制覇を成し遂げよう
と目論むナチスドイツと、それを阻止
しようとするアメリカ側の攻防が描かれる。
直接的な悪役となるのは。ゲシュタポの
エージェント、アーノルド・エルンスト・
トート(ロナルド・レイシー)と、
アーク発掘の指揮を司るドイツ国防軍大佐の
ヘルマン・ディートリッヒ(ヴォルフ・
カーラー)だ。
興味深いのはこの2人。
とりわけディートリッヒは、アークを追い求め
ながらも、それがユダヤ教の信仰の
対象であるだけに、その神秘性については
きわめて冷淡な見方をする人物として
描かれていることである。
そして、ナチスドイツの選民思想や排他性を体現
するこの2人の、協力者としてインディと
敵対するのが、実利主義的なフランス人
考古学者のルネ・ベロック(ポール・
フリーマン)だ。
考古学的な知見は持たず、
権力掌握の道具として、「財宝」を
追い求めるナチスドイツと、
彼らを心中では
軽蔑しながらも、
自身の利益のために
協力することをいとわない実利主義者
(哲学者のハンナ・アーレントが言うところの
「凡庸な悪」)という構図は、第3作
「インディ・ジョーンス/最後の聖戦」
でも、あえて反復的に描かれる。
おそらくここには、のちに「シンドラーのリスト」
(93年)で、ホロコーストを真っ向から
描き出したユダヤ系映画人、スピルバーグの
執念が表れているとみて良いだろう。
活発なヒロイン、マリオン・レイヴン
ウッド(カレン・アレン)は、2つ目の
続編には登場せず、第4作「クリスタル・
スカルの王国」で、インディとの大団円を
迎えることとなる
...。
(文:佐野享)
備考:この内容は、
2022-3-19
発行:san-ei
「80's映画大解剖」
より紹介しました。