日本中、あちこちの町の若者たちの招かれて歌い
ながら、旅を続けてきたわけですが、マイクの前に
立ったからといって、いい格好しようと思ったり、
うわべだけのよいしょ、毎度おなじみのジョーク
...
これは、客席の頭上を すべってゆきますね。
自分の言葉で、話さなけなければ...。
と、心がけています。
そのために(単に好き、なだけでもあるんですが)
とにかく、僕は、歩き回りますね。
商店街、会場のまわり、川のほとりや、
ひなびたお寺...。
地元の人にとっては、近すぎて見えなかったものを、
旅人の目を通して話すと、妙に納得
してもらえるようです。
1つでもふたつでも、訪ねた町に興味を
持って、感心して、そして好きになって帰りたい。
そう思っています。
場面は、すっかり変わりまして、どこか中近東の
オールドバザールへ、買い物にでかけた
ところを、想像してみてください。
派手な民族衣装を身にまとった、目の色も皮膚の色も
違う人々が、ざわめきの中を
行き交っています。
店主は、地元の人間には、2ドル位で売る品物でも、
旅人には、10ドルなんてふっかけます。
「ベリー エクスペンスィブ」
(高すぎる)
片言の英語で、やり合うわけですが、
「ハウマッチ?」
なんて聞かずに、
「キマデス チャンデス?」
【これは、アフガニスタンあたりで使われて
いるダリ語で、(いくら?)の意味、ちなみに
僕は、この言葉を、アグネスチャンデスに
ひっかけて覚えた。】
とやると、店主との交渉は8ドルからの
スタートです。そして、出されたチャイ(茶)を
すすりながら、
「ピスィヨール、キマダス!」(高すぎる)を連発し、
4ドルくらいまで、粘るわけです。
さて、そろそろ仕上げをご覧あれ。ここからが
一番大事、感情込めて訴えるのです。
「ええかげんにしとけよ。2ドルで、売っても
儲けはあるやろ!?
どぎつい商売しとったら笑われるで!
たのむわ、貧乏旅行者をいじめたらあかん。
仲良うやろう...」
結果? もちろん、これで、僕も地元の人間の
仲間入り。次からは、あくどくふっかけられることも
ありません。
意味は、片言の英語で伝え、友好の姿勢は地元の
言葉で示し、でも、やっぱり熱意は、関西弁
(自分の言葉)でないと、伝わらないんですよね。
僕は、15歳と13歳の娘、
それに10歳の息子の父親です。
よく教育方針は? と聞かれますが、
改めて言うほどのこともなく、
困ってしまいます。
今回、「自分の言葉」というテーマで、原稿依頼が
あって、ふんふん、ふん。そうだ、そうだ。
と思い当たることがあるので、
最後に、それを書きます。
僕は、子供たちからの質問には、全部答えてきました。
変な父親と思われるのは、覚悟の上です。
わからないと答えたことも、もちろん
あります。でも、知っていて、お前が大人になったらとか、
そのうち自然にわかるよ、とかは、言ったことが
ありません。性の問題についてもです。
上の娘は、割とヘビーなテーマが多くて、
●んだ祖父は、どうなったか? とか。修学旅行で広島へ
行く前の晩には、日本とアメリカは、また戦争を
するのか? とか...。
南米音楽を紹介する音楽会へ連れて行った
帰り道、「今日のコンサート、あんまりお客さん
いなかったのに、どうして司会の人は、たくさんのお客様、
ありがとうございますって、言ったの?」なんて、
僕を困らせます。
男の子は、男の子で、また、ガラリと世界が
変わりますね。
「ゴジラは悪者か? いい者か?」
皆さんなら、どう答えます???
これは、もう、相手が理解できようが、できまいが、
この世の中に、絶対的な正義も悪もないんだと、
主観の違いなんだと、体制や立場が変われば見方も
変化するんだとなんとか、子供の世界の友だち関係、
親との関係も含めて話すしかないですからね。
ふぅ...。
時々、こんなことまで話す必要あるのかなぁ?
なんて自問しますが、これが僕のやり方。
いい加減な情報に、振り回す前に、父親として、
自分の言葉で、語っておきたいと思うのです...。
(河島英五 :シンガーソングライター)
備考:この内容は、
1993-4-1
発行:PHP
より紹介しました。