特集「夫婦」”男の気持ち、女の気持ち”... | Q太郎のブログ

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さかのぼっても読んでみてね♥♥

 

木崎さと子 の写真・画像 : 報道写真・ニュース映像の提供購入 ...

 

「譲り合い」 作家:木崎さと子

 

 

 

「主人は定年になってから、ずっと家にいるでしょ。

でも、私は、勉強だの、アルバイトだの、テニスだの

って毎日、出かけるわけよ」

 

 

 

「へえ、そういうこになったんだ! あなたって、

いつも家にいる人だったのに。変われば

かわるものね」

 

 

 

「そうなのよ。ところが、それが主人

には面白くないのよね」

 

 

 

「そりゃ、そうだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国際結婚】日本大好きのダーリンと一時帰国した結果、、(優しく ...

 

 

隅田川の上の会話である。夫は70に近い

スイス人、日本人の妻は50を過ぎたところ。私たち

一家がパリの郊外に住んでいたころ、このご夫婦も

すぐ近所に住んでいて、家族ぐるみ親しくしていた。

 

ちょっと主人と、一緒に日本に来ているんだけれど、

と彼女から電話がかかってきたとき、

「じゃあ隅田川の水上バスに乗らない?」と私は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅草】三社祭2024の日程・見どころは?各日の行事、アクセスなど ...  保存版】浅草の年間イベント・お祭りカレンダー - LIVE JAPAN ...

 

彼女は、浅草育ちの下町っ子がご自慢で、歯切れの

いい話し方やテキパキした身のこなしにも、

 

 

それがよく現れている人である。かたやご主人は。

 

何十代もにわたる家系図が、残されているようなスイスの

由緒ある街の名門の出で、堂々たる押し出しの

立派な風貌が西洋人の中でも目立つような人で

ある。

 

 

 

 

 

教養ゆたかな紳士で、ドツツなまりの英語で

 

しばしば痛烈すぎる皮肉を飛ばすが、時には私には、

 

きつくひびいたが、ともかく長いお付き合い

だから、懐かしい。ただ、ご主人が、そこにいらっしゃるかぎり

 

英語で話すことになるのが、玉にキズ

である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国際結婚のカップル必見!結婚式を日本で挙げるときに知っておき ...

 

 

 

何年ぶりかで会う彼女とは、日本語で心おき

なく女どうしのおしゃべりをしたい、彼女だって、

 

そうであることはわかっている。では、ちょっと

 

失礼して、ご主人には水上バスから妻の故郷で

ある隅田湖畔を眺めていていただき、女2人は積もる

 

おしゃべりに花を咲かそう。ということになった。

 

 

 

 

 

これが、日本人どうしのご夫婦だと、言葉の問題は

 

ないのに、だいぶ様変わりする。女のおしゃべりに

参加しては、コケンにかかわるとばかりに、どこか

 

別のところにでかけてしまう男性が多い。

 

 

 

 

 

隅田川べりの風景は、ビルや倉庫ばかりで、

 

江戸の歴史によほど詳しい人でもない限り面白い

 

こともないのだが、ご主人は私達の陰謀に気が

 

ついてか、秀でた鼻梁を空と水面の間にそびえさせて、

淡色の瞳を川岸に向けた。

 

 

 

 

 

そんなご主人を横目に見ながら、彼女は、

 

「今度みたいに私の用事で日本に来るときは、

 

独りのほうが簡単なのよね。仕事だけ、さっと

 

片付けて、すぐ帰ればいいんだから。

 

それなのに。

 

僕も行くって。こんな暑い日本に来たって

 

しょうがないのに...」

 

 

 

『日本じゃ、そういうのを濡れ落ち葉って

 

いうのよ」

 

 

 

「なあに、それ?」

 

 

 

「定年後のご主人が、奥さんの行くところ、

 

どこにでもくっついて行くこと。払っても、払っても、

 

ついてくる、って」

 

 

 

 

 

スイス人との結婚手続き方法とは?国際結婚の流れと必要書類を ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流行語だから、外国帰りの人には興味も

 

あろうか、と紹介してみたのだけれど、すぐに、

 

 

 

「でも、それてって、いじわるな言い方よね。

 

それまで一生懸命働いて来たんだから、多少めんどう

 

でも、一緒にでかけてあげなきゃ」

 

 

 

いささかならず優等生的な言い方になって

 

しまったが、彼女もすぐに

 

「そりゃ、そうよ。もちろんよ」

 

と、心をこめて賛成してくれた。それというのも。

 

お互いも、長い外国生活のなかで、夫婦で助け

 

合う以外になかった。という思い出があるからだ。

 

 

 

 

 

しかし、なんとか偉そうなことを言ってみても、

 

私の夫はまだ、現役で仕事をしている、

 

定年後の夫婦の暮らしなど、まだ、想像がつかない。

 

しかも、うちは両方とも日本人だから、

 

若いときから生活習慣の違いや言葉の不自由さで苦労

 

したことはない。それに比べて彼女は、23歳

 

だかで結婚して以来、夫婦間の異文化体験はイヤ

 

というほど重ねてきている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水上バス・東京湾クルーズ | 【公式】東京都観光汽船(TOKYO ...

 

「なにしろ”宵越し

 

の金はもたねえ”っていう下町のきっぷで育って

 

るのに、主人ときたら」と若い頃の彼女からは、

 

スイス流経済観念に従うことの、難しさをよく

 

聞かされた。実地に見ていても、ちょっとした子供の

 

ものを買うにも、いちいちその精神に照らし合わせて

 

いる。

 

 

 

 

 

ウワ、たいへん、私なんかには到底

 

つとまらないだろうに、彼女は、めげもせずにえらい、

 

と何度 関心したことかわからない。小さな衝動買い

 

は始終の私など、つい彼女に同情して歯がゆく

 

もなり、よけいなおせっかいだけれど、お宅は日本では

 

考えられないぐらいの財産家でいらっしゃるん

 

じゃないの? スゴイ指輪でも買って頂いたら?

 

 

 

 

 

などと、十年を越すおつきあいの間には、親しさ

 

あまって口を滑らせたこともある。

 

 

 

 

 

まじめな彼女は、私のいい加減な言葉も

 

まじめに考え、宝石ならスイス流経済観念に矛盾しない、

と判断したらしく、まともにそう申し出たら

 

しい。

 

 

 

 

 

すると、ご主人は、深く納得したらしく、

 

しばしば宝石を買ってくるようになった、というから

 

面白い。それでいて、相変わらず、一フランの

 

ムダも見過ごさない。が、かと言って、彼女が

 

アルバイトをしてお金を稼ぐ、などというのも、

 

いけないのだ。すべからく主婦は家にいて。家事

 

万端をこなすべきだし、その要求水準は、相当に高い。

 

 

 

 

 

なるほど、本で読む通りだと私は、感心した

 

まま帰国してしまったのだったが、人生はなかなか

 

本で読む通りではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅草から「水上バス」で隅田川・東京湾クルーズ!運航ルート ...

 

この日、水上バスを

 

降りて浅草の仲店を歩いているとき、私とのおしゃべりを

 

ふと止めた彼女は、目の前に高くそびえる

 

ご主人の広い背中にむかって、

 

「なにか欲しいものが

 

あったら、ためらわずに、どんどん買っておしまい

 

なさいよ」とドイツなまりの英語で叫んだ。彼女の

 

英語までドイツなまりになってしまったのも感動的

 

だが、ご主人が、子どものように、オオ、イエス、

 

と素直に答えている...。

 

 

 

 

 

ああ、こういう日が来たのだ。来たのねえ、

 

と、私は感動をこめて彼女をそっと見たが、もう、

 

こんなことは珍しくもないらしく。彼女は、済まして

 

いる。

 

 

 

 

 

17歳年上の、学問も体力もむろん

 

経済力も、段違いのご主人と、なれない外国語で

 

暮らしつつ、彼女はつに、あの名だたるスイス流

 

合理精神にさえ勝ったのだ。いや、もしかしたら、

 

ご主人は、スイス魂に照らし合わせて、妻に

 

従ったほうが合理的だと判断するように変わって

 

きたのかもしれない。

 

 

 

 

 

あるいは、50を過ぎるまで、ご主人の判断の

 

通りに動いてきた妻が、経済的には まったく必要が

 

ないのに、アルバイトをしてみたり、あちこちの

 

講座に出て勉強したり、し始めたことに、さしもの

 

スイス紳士も仰天して、思考停止状態になって

 

しまったのだろうか? と想像すると、私は

 

おかしく、内心で大いなる拍手を送った。

 

 

 

 

 

違う、と言って、このご夫婦ぐらい、似て

 

いない夫婦もめったにいないだろう。それでも、お互いに

 

頑張って そい遂げたおかげで、彼女は、はつらつと、

 

生き、ご主人も変化ある日々を送っているのだ...。

 

 

 

 

 

 

備考:この内容は、

1991年7月号」

発行:PHP

著者:作家・木崎さと子さん

より紹介しました。