「ほら、これが噂のトンネルだよ」
英輔は、助手席の美知江に声をかけた。
美知江の肩が、その言葉に反応した
かのように、ピクンと動いた。
「冗談でしょ。やめてよ」
冷たそうなくらいに整った顔立ちの
美知江が、おびえた声で言った。
この作戦は、成功だったかな?
と、英輔は、
心のなかでつぶやいた。
「あれ、こういう怖い話って、
苦手だったの?
意外だな」
美知江は、大学の中でも、かなり目立つ美人だ。
彼女に声をかけてフラれたという男を、
何人か知っている。そこで、英輔は彼女と
同じサークルに入り、やっと今日
デートに こぎつけたのだ。
「引き返しましょうよ!」
美知江の手が、ハンドルを握る英輔の
腕にしがみついてきた。
クルマを、トンネルの前で止めて、英輔は
美知江をそっと抱き寄せると、唇に
キスをした。
「ごめんよ。このトンネルで
”いないいないばあ”っていうと、のっぺらぼうの
おばけが笑う話。
おれの作り話さ」
美知江は、クスリと笑った。
「知ってる。だまされてみたの。
だって、のっぺらぼうお顔で、
どうやって笑えるのかしら?」
「あっ、そうかぁ」
クルマが後ろから英輔たちを追い抜いて、
次々とトンネルへと消えていく。おそらく、
この先のホテルへいく アベックたちだろう。
英輔は美知江の肩を抱いたまま、
ゆっくりとクルマを発進させ、
トンネルに入った。
「そうか、バレちまったか。ハハッ」
英輔は、自分の胸に顔をうずめて
いる美知江に、そっとささやいた。
「いないいないばぁ~」
美知江が、ゆっくりと顔を起こした。
その顔は、のっぱらぼうだった。
のっぺらぼうは、たしかに意味あり気に
「フフフ」と笑った。
そして、もう一度、キスをせがむように、
英輔の顔へゆっくり ゆっくりと
近づいてきた...。
備考:この内容は、
1995-8-5
発行:KKベストセラーズ
著者:奥成達と
フランケンシュタインズ
「子どもの読めない童話
怪談50連発!
危険なユーモア」
より紹介しました。