学者のエヌ博士は、助手の青年を呼んで、
こう話しかけた。
「きみもそろそろ、なにか珍しい物を
発明していいころだと思うがね?」
「はい。じつは、いま、ご報告しようと
思っていたところです。」
「おや? 何か、作ったというわけだね?」
「ええ、これです。ロボットの鳥ですよ」
と、青年は、手にしていた鳥を見せた、
カラスぐらいの大きさだった。博士は、
それをながめながら聞いた。
「うまく飛ぶのかね?」
「もちろんです。しかも、ただ飛ぶ
だけではありません。よくご覧に
なってください!」
青年は鳥の、頭についているボタンを押した。
ロボットの鳥は、羽ばたきをし、
部屋の中を飛び回り始めた。
そして、
「火の用心、火の用心~」と、さえずる。また、
口をパクパクやると、カチカチという
拍子木の音を立てた。それを見て、
博士は、腕組みををした。
「妙なモノを、作ったな。しかし、
まあ少しは、役に立つかもしれないな?」
「いえ、少しではありません。
この鳥は、火事を発見すると、
大声で叫びます。また、その場所を、
電波で、知らせてくれます」
「そうか、そうなると、大発明だ。
たくさん作って飛ばせば、火事になる災害を、
ぐんと減らすことができるわけだ。よくやった!」
博士は、青年を褒め、感心しながら
タバコに火をつけた。そのとたん、ロボット鳥は、
そばへ飛んできて、
「火事だ~、火事だ~!」と叫んだ。
同時に、青年の持ってた装置は、
ガーガーと、音を立て始めた。博士は、
あわてて、タバコを投げ捨てた。
「性能の確かなことは、よくわかった。
だが、これでは困る。もっと改良しなさい!」
「そうします...」
青年は、引き下がった。
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何日か、経って...、
青年はまた、持って来た。
「今度は、大丈夫です。小さな火には、
反応しないように、改良しましたから」
「では、見せてもらおう」
「はい」
青年は部屋の窓を開け、
鳥のボタンを押した。
しかし、鳥は窓から出てゆこうと
せず、部屋の隅へ飛んで行って
「火事だ~!」と叫んだ。
そこには、今日から付けはじめた
暖房装置があった。博士は笑って言った。
「まだ、実用には、無理なようだね!?」
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さらに、何日か経った...。
ある夜、博士は、眠っているところを起こされた。
目をこすって相手を見ると、助手であり、
時計をのぞくと、午前4時だった。
「どうしたんだ! こんな時間に?」
「一刻も早くお知らせしようと思ったからです。
今度こそ、本当に完成しました。
よく、教え込んだのです。火事とは、
しだいに熱さを増していくものだと。これなら、
暖房があっても 騒ぎません」
今度は、鳥も、開けた窓から飛び出していった。
「火の用心~、カチ、カチ!」という音が
遠ざかって行った。
しばらくすると、青年の手にある
受信装置が、ガーガーと、
鳴り始めた。
「ほら、どこかで火事を、
見つけました」
しかし、装置を調べると、鳥は、どんどん
飛び続けていることがわかった。
遠くに火事を発見して、それに向かっているのかも
しれない。
その方角に当たる消防署に電話をかけ、
聞いてみた。しかし、どこにも火事はない
という返事だった。
青年は、不思議がった。
「どういうことなのだろう?
今度こそ、
成功だと、思ったのに...」
そのうち、博士は、ヒザを叩いて言った。
「わかったぞ! この飛び方を見ると、
昇ってきた太陽を目指しいるらしい。
昇るにつれて、暖かくなるからな。
この調子だと、戻って来ないかもしれないぞ...!」
備考:この内容は、
令和3-4-30
発行:KADOKAWA
著者:星新一
「きまぐれロボット」
より紹介しました。