赤川次郎「愛情物語」...その1 | Q太郎のブログ

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PEANUTS RECORDS / 原田知世 / 愛情物語 [7"]

 

 

 赤ん坊の時、捨てられ、気立てのいい仲道治子に育てられた

 

美帆は、すくすく成長した。いま、16歳になった

 

美帆は、鳴り止まぬ拍手の中にいた。カーテン・コールが

 

何度も繰り返された。天才バレリーナとしての輝かしい

 

未来をつかんだのだ。このすばらしい青春をくれたあの人は、

 

今何処に? 美帆の小さな冒険と大きな愛の旅が

 

始まった...。

 

人気最高潮の赤川次郎が放つ、青春ラブ・

サスペンス。角川映画化決定。

(監督・角川春樹 主演・原田知世)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画「愛情物語」|ホームドラマチャンネル

 

【プロローグ...】

 

 

 今では、列車も窓の開かないのが多くなって、

そんなこともなくなりましたけど、その頃...

 

 

ちょうど16年前になりますが、その時分には、列車の窓

 

から外へ物を投げる不心得な乗客が

いたものです。

 

 

 

紙くずぐらいなら別にどうってことはないし、

読み終えた新聞、週刊誌なんか、時には拾って

 

パラパラと、めくったりしたこともありました。

 

 

 

 

 

でも、中には空き缶、空き瓶、弁当の空箱なんかを

捨てる人もいて、これなんか、頭にでも当たったら、

大怪我をすることになりますものね。よく私の母は、

近くの駅の駅長さんのところへ、文句を言いに

行っていました。

 

 

 

 

 

田舎の駅の駅長さんですから、おっとりとした、

人のいい方で、母の訴えにもよく、耳を傾けて

 

 

くださっていたようですが、その割に、一向に事情が良く

ならない、と母は、ブツブツこぼしていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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でも、母の苦情が、全部の列車の乗客に伝え

られるなんて、考えても無理なことはわかりますのに、

頑固な母には、そんな理屈は通用しないのでした。

 

 

 

 

 

それにしても。列車は長い距離を走っているので

すから、投げ捨てられるゴミが一箇所に集中するには、

何か理由があるはずです。

 

 

 

 

それはたぶん、私の家の、ほぼ真上に当たる所で、

線路が大きくカーブしているため、列車がスピード

を落とすこと、そして、それまでは、ほぼ切れ目

なく人家の明かりが見えているのに、そこへ来て、

木立が私の家をスッポリと覆い隠しているような格好

になっているために、列車の中の人には...、特に

夜中に...そこに何もない所のように思える

のでしょう?

 

 

 

 

 

それにしても、周囲は小さいながらも町なの

ですから、何もないなんて、そんなはずはないのですが、

やはり、どうせ誰が捨てたもんやらわかるまい、

という気持ちで、気軽にポイとやるのでしょう。

 

 

 

 

 

捨てられた物は木立の間に引っかかって

いればいのですが、(とはいっても、後で片づけるのは

我が家の仕事でした)。うまく、くぐり抜けて

来たものは、斜面の下にある、うちの庭へと飛び込んで

来ることになります。

 

 

 

 

 

...その日は、もう夏も

近い6月の末、梅雨明けの

遠雷が時折、空を震わせる夜でした。

 

 

 

 

 

蒸し暑くて、庭へ面した戸を明け放ち、蚊を

避けるために、何本も蚊取り線香をたいていました。

 

 

 

 

 

その頃私は26歳。

もちろん、小さな町では「行き遅れ」の娘

でしたが、生来楽天家なのか、あまり、そんなことも

気にしていませんでした。それというのもちょうど、

婚期を迎えた20歳のとき、父がポックリと●くなって

しまい、母と2人になってしまったせい

だったからです。

 

 

 

 

 

それから6年。...

女2人の暮らしは、そうお金もかかりません

でしたが、父には借金が少しあって、

それを返すためには、私も働きに出なくては

なりませんでした。

 

 

 

 

そんなわけで、26とはいえ、未来を誓った

人もないまま、夏を迎えようとしていたのです。

 

 

 

「いやな季節だね?」

 

 

 

母にとっては夏は苦手で(太っていたせいですが)、

「いやな」という形容詞が落ちるとは、まず

無いのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「縁側に出たら?」

 

と、私は言いました。

 

 

 

「そこまで行くのも おっくうだよ」

 

 

 

母は、食卓はそのままに、ゴロリと横になりました。

 

 

 

 

 

私はこのところ、母が疲れやすくなっているのに

気付いていました。まだやっと、50だと言うのに、

老け込むには早い。でも、事実、髪には急に白い

ものが、目立ち始めました。

 

 

 

 

 

私の稼ぎが良ければ、母にのんびりと余生を

送ってもらうのですが、こんな小さな町では、そんな

高給を取れる仕事はありません。

 

 

 

 

 

でも、なんとかしなければ、

...ともかく。この

夏を乗り切ったら、何か考えよう、

と私は思いました。

 

 

 

 

 

「今日は遅いね」

 

と母が寝そべったまま言いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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いつも、夕食を終わる頃に、すぐ上を通る夜行列車

 

のことです。そういえば、少し遅れているらしい。

 

「暑いから、のびてるんじゃない? おかあさんと、

 

一緒で...」

 

 

 

と、私は言いました。

 

 

 

「ほら、来たわよ!」

 

 

 

「ふん...」

 

 

 

返事のような、そうでもないような声を出して、

 

母は、眠ってしまいそうでした。

 

 

 

 

 

列車の響きが近づいて来ます。スピードを落とす

とはいえ、音と振動はかなりのものです、食卓の

皿はガタガタ鳴り出しますし、前には、壁にかかって

いた父の写真の額が、落ちてしまったことがあります。

 

 

 

 

 

もう、すっかり慣れてしまったとはいえ、その音や

振動は、決して快いもので、なかったのは

当然でしょう...。

 

 

 

 

ガタン、ガタンとレールが鳴り、列車が近づく

 

のがわかります、私は、目を閉じました...。

 

 

 

 

 

 

 

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備考:この内容は、

昭和58-11-30

発行:カドカワノベルズ

著者:赤川次郎

「愛情物語」

より紹介しました。