「フィフス・エレメント」(1997)フランス・アメリカ
フランス映画界の威信をかけた超大作。
5,000年に一度開く異次元の扉。
そこに侵入し、全生命体を
滅ぼそうと企む邪悪な勢力
エビルと人類との攻防...。
タイトルの『フィフス・エレメント」とは、
そんなエビルに対抗する5つの
武器のことだ。だが、その武器は、
人類にもたらされる寸前で
破壊されてしまう。
しかし、エレメントの中でも
最強の武神リールー(ミラ・
ジョヴォヴィッチ)を、さいわいにも
人類は蘇らせることに成功。
ところが、若い女性の姿をしたリールーは
状況を飲み込めずに逃亡してしまう。
そんな彼女に加担するのが、
無重力タクシーの運転手コーベン
(ブルース・ウィリス)である。
業務中に上空から落ちて来た
リールーを助けたコーベンは、否応無く
宇宙の運命を決する壮大な争いへと
巻き込まれていく。
『ニキータ』(90年)、そして
『レオン』(94年)など、無垢な●し屋の
悲壮を描いた監督作で知られる
リュック・ベッソン。
我が国では、
80年代以降の、アート&単館系
映画の興隆に乗り、支持を集めて
きた感もあるが、本作はそんな彼の
メジャー台頭ともいえる、全国
ロードショー公開のSF超大作だ。
先に挙げたものを代表作とする
ならば、SFとはやや縁遠い印象を
受けるベッソン監督。だが彼の
劇場長編デビュー作『最後の戦い』
(83年)は、交配した近未来で
男たちが生き残りをかけて戦いを
繰り広げる、まっとうなSF作品だった。
特に映像面でのセンス・
オブ・ワンダーなスタイルは、語り草で、
メビウスなエンキ・ビラルと
いった、ヨーロッパを代表する
バンド・デシネ(フランス風コミック
の呼称、以下BD)作家が描く
画を実写にしたような、「乾いた
タッチ」や、「陰影表現」の独特さは、
うるさめなSFファンにも熱く
支持されている。
『フィフス・エレメント』は、
そんなベッソンのジャンル帰還と
して大きな期待が寄せられた。
しかし、良く言えば、客を選べぬ娯楽性
とアクション性に満ち、悪くいえば
思いつきをそのまま物語にした
無邪気さは、ファンよりも広く
大衆に目配りしたものだったといえる。
だが唯一、古くからのファンが
溜飲を下げた点がある。それは
ビジュアルだ。ベッソンは本作で
メビウスやメジエールら、正真正銘の
BDの大家をプロダクション・
デザインに招き、「動くBD」と
呼ぶべき究極的な画を作りあげたのだ。
結果、劇中に出てくる未来
図像やクリーチャーの1つひとつに
至るまで、ハリウッドの
視覚効果スタジオ(デジタル・ドメイン)に
VFXを委ねながらも、壮大なまでに
フレンチカラーの濃い作品になっている。
そこには、BDを”創造の親”
とするベッソンの思いが強く反映
されている。メビウスなど優秀な
自国の作家がハリウッドの大作に
駆り出され、その才能の上澄み
だけをすくい取られていくことに、
彼は忸怩(じくじ)たる感情を抱いて
いたのだ。
「ニセモノではなく、本気の
BD魂を持つ映画を作り上げる」...。
それこそが、本作の大きな
立脚点なのであろう。
ベッソン作品としてここ観られる
機会の少ない映画だが、フランスの
アートとしては果たした成果は、
彼のどの自作よりも大きい...。
(尾崎)
備考:この内容は、
2012-8-21
発行:洋泉社
「~異次元SF映画100~」
より紹介しました。