アニャ・テイラー=ジョイが語る、
”怒りの戦士”フュリオサという運命の役。
M・ナイト・シャラマンやエドガー・ライトら、
名だたる監督とのタッグで数々の話題作を
送り出し、ハリウッドの新時代を切り開いている
アニャ・テイラー=ジョイ。
多くのオファーが舞い込むなかでも
『マッド・マックス:フュリオサ』との
出会いに運命的なものを感じたといいます。
”怒りの戦士”フュリオサとしての挑戦の
日々を振り返ってもらいました。
...『マッド・マックス:フュリオサ』の
脚本を初めて読んだとき、どう
思いましたか?
アニャ> わたしは、演じるべき役者が決まって
いる役があると思っています。
だから「この役は、私じゃない」と感じたら、
手放すべきだと思います。
そうすれば、その役にふさわしい人に
届くから。この作品の脚本を読んだとき、
私は「この役を理解できるし、
すばらしい経験になる」と確信
できました。
自分の役だと感じたんです。
...
ジョージ・ミラー監督の脚本は
イラストや本からの引用などが
含まれていて、驚くほど詳細ですが、
脚本の言葉をリアルな人物に変える
錬金術も必要ですよね? あなたは、何を
カギにしてフュリオサを見つけ
たのですか?
アニャ> すばらしい経験ができました。
他の作品と違い、ジョージ・ミラーの
脚本に携わると、撮影現場に入る
2週間~1ヶ月前から作品を学ぶことに
なります。なんでも話合うんです。
彼と会うのがまだ、2回目くらいの
ときに、もう議論がはじまっていました。
「なぜ、この映画を作る? この映画を
僕に売り込むとしたら、どう説明する?」
と、監督に問われて、「マッドマックスは
荒唐無稽な娯楽作品でありながら、極限状態に
追い込まれた人間が、どうなるかという
教訓も含まれている」と、答えました。
...ジョージ・ミラー監督が40年
以上に渡り、築き上げてきた世界を
歩き回るのは、どんな気分でしたか?
アニャ> 信じられませんでした。
撮影中は、
もちろん集中していました。でも、
毎日毎回も、フュリオサの心の中から
抜け出して、周りを見渡しては
「子どもの頃からの夢の世界にいる」
と、思いました。
過去に戻れるなら、
8歳の自分に「あなたは本当に夢の仕事
に就く、役を演じるように言われるの!」
と教えます。
昔からの夢でした。
このシリーズのすばらしい世界観や
信じられないほどの作り込み、驚く
ような乗り物に囲まれていました。
撮影中、いつもフィルムカメラを
持ち歩き、すごい写真も撮れました。
本当に、単なるファンになっていたんです。
...フュリオサは、タフですよね?
あなたは、彼女の様々な面を演じて
説得力のある存在になっています。派手な
アクションシーンだけでなく、
静かで感動的な場面もあります。
どのように、バランスを取りましたか?
アニャ> 彼女を演じるうえで難しかったのは、
監督がフュリオサの顔をどう見せたいか
という明確なイメージを持っていたこと。
演技者として、目ですべてを伝えることが
重要になりました。
感情をすべて目の表情で伝え
なければならず、役者としては、大きな
挑戦でした。それと同時に、フュリオサが
感情を表わにする瞬間もありました。
あの荒れ果てた地では、どんな
弱さも、大きな感情の揺れも許容され
ないから、めったにない感情の表出が
すごく際立つんです。
...クリス・ヘムズワースは
ディメンタスというキャラクターに何を
もたらしましたか? 彼が演じる
滑稽な将軍と、これから戦士になる
フュリオサとの関係を、どのように作り
上げたのでしょうか?
アニャ> ラッキーなことに、
ディメンタスとフュリオサとの
関係とは全然違います。私たちは協力
し合える友人同士で、お互いを心
から尊敬しています。
彼のキャラクターが、大きな役割を果たすと聞いて、
興奮しました。彼の役者として
才能を目の当たりにするのは、本当に楽しい
かったです。
毎朝、4時間もメイクの
椅子に座っているのを、彼がどれだけ
楽しんでいたかは、わからないけれど、
彼はさすがです。文句ひとつ
言いませんでした。
そういうところに
親近感を覚えました。私たちは、気取った
俳優じゃありません。気取ってない役者と
仕事するのは楽しいし、他の何よりも
仕事を優先する人が好きです。
...荒れ果てた地には弱さが入り込む
予知はないと話されていましたが、
警護隊長ジャック役のトム・
バークは、フュリオサにとって心の
オアシスのような存在でした。彼との共演は、
どのようなものでしたか?
アニャ> 彼が大好きだから、考えるだけで
涙が出そうになります。彼は荒野に
咲く珍しい花のような存在。それは、
彼がまともだから。
警護隊長ジャックは純粋で、良識と威厳を
持ち合わせている。フュリオサには、それが、
信じられなかった。でも、あの荒廃した
世界で彼の威厳と良識に触れ
られたから生きていられたのです。
...あなた自身は現在、免許を
持っているのでしょうか?
アニャ> あにゃです。
もとい、まだです。運転免許を取得できる
ほど長く、働いていない時間を確保
できないんです。
...180度のスピンを披露すれば、
即座に免許証を受け取ることが
できそうですね?
アニャ> そのとおりですね。縦列駐車
なんて必要ない!(笑)。
...本作のスタントにあたって、
どのような準備をしたのですか?
アニャ> 最初にジョージから、、どれくらい
スタントをやる気があるかと
聞かれて、「なんでも、やらせてくれるなら
やりたいです」と答えました。
そうしたら、私の運転初体験は180度
スピンになりました。ありがたかったのは、
バイクと車の運転を同時に
学べたこと。
バイクと同じことを車で
やってみると、バイクに比べて車は
とても安全で「あら? これなら大丈夫。
守られている」と、感じられました。
...フュリオサの外見の変化に
ついて話していただけますか? なぜ、
キャラクターの本質を表現するもの
なのでしょうか?
アニャ> この作品のために、髪を剃るのを
楽しみにしていました。やる気満々
だったんです。でも、ここが、ジョージ
らしいところなんですが、彼は私が
髪を触っているのを見て、「美しいな。
やめよう」と言ったんです。私は、
「今、何て?」って。考えてみたら、
彼は正しい。
15年越しの物語が
描かれるのだから、時間の流れを表現
する簡単な方法は髪を短くしたり、
また
伸ばしたりすることだから。
この作品のフュリオサは、”緑の地”に
戻れる、荒廃した世界に生きていても、
自分は変わっていないと信じている
部分があります。
私たちが心奪われたフュリオサになる過程で、彼女は
純粋さと希望を失う。故郷にいた
頃の少女には戻れない。それを彼女の髪に
象徴させたんです...。
備考:この内容は、
令和6-5-21
発行:近代映画社
「screen 2024年7月号」
より紹介しました。