私が出演した連続テレビドラマ
「Eye Love You」が終了した。
人の目を見ると心の声がすべて
聞こえるという能力を持った侑里
（二階堂ふみ）。
例えば落語会で主催者が
「志らく師匠、今日の落語、最高に面白かったです！」
と、言いながら、実は心の中で、
（ふん！ 談春の方が面白かったよ）
と、いうのが、聞こえてしまうのだ。
だから、彼女は、恋愛ができない。相手の
心の声が聞こえてしまうから。
しかし、そこに韓国の青年テオ君が
現れる。韓国のスター候補NO.1の
チェ・ジョンヒョブが演じている。
相手は、日本語をしゃべることが出来るが、
心の中の思考は韓国語。だから、何を
考えているか、まったくわからない。
そんな2人の、まるで少女漫画のような
ピュアなラブストーリー。
その侑里のお父さんが私。彼女が
18歳の時、北海道の海で溺れていたのを
父が助ける。ちなみに、
そのシーンは美しいよ。コバルトブルーの海に
沈んでいく二階堂ふみ。
それを、本当は、カナヅチの志らくが、勇敢にも
飛び込んで助ける。
引きの画は、まるで
ディズニーのワンシーン。で、その際、
父は全身麻痺になってしまい、口は
きけない、動くのは目だけ。他人と
意思の疎通ができなくなってしまうのだ。
しかし、娘は、心の中を読むことが
出来るから親子の会話だけは、
成立するのです。
ドラマは始まると、神田伯山に、
「志らく師匠は大根役者だ」と馬鹿に
されていたが、徐々に視聴者が支持して
くれるようになる。
ドラマの終盤、娘の空想シーンで、
私が、喋りだすシーンがあって、視聴者からは、
「号泣！」
「志らくから泣かされるとは！？」
と、ネットニュースになるほど、
評判が良かったんだからね。
つまり、小津安二郎監督の「晩春」の、
笠智衆のラストシーンなのだ！ 無表情で
淡々と喋っていたお父さんが、娘が
嫁いでいって1人きりになった部屋で、
リンゴをむきながら、ただガクンと
うつむくラストシーン。笠智衆はうつむいただけでも
人々は「号泣！」、名シーンとなる。
それと同じ。
「志らくパパがしゃべった！」てなもんだ。
私の妻も号泣。7歳の娘も号泣。
それを見てもらい泣きをする私。
11歳の長女が「なんでパパ、自分の
芝居見て泣いているの？バカじゃ
ないの？」。
確かに、側から見れば
喜劇です。
とまあ、別に志らくが笠智集
レベルの役者と言っているのではなく、
「Eye Love You」の監督岡本伸吾の
演出と相手役の二階堂ふみの芝居が
素晴らしかったってことです。
でも、こんなエピソードがある。後日、
インタビューで、二階堂さんは、
テオ君派（恋をダイレクトに伝えてくる
情熱的男）？
それとも、中川大志
君派（侑里を愛するがテオくんに譲る
男前）？ と聞かれたのだが、その
答えが「お父さん派です」。
もちろん、角が立たない、パーフェクトな
答えなのだが、「志らく、韓国スターと、中川大志に勝利！」
と、ネットニュースになっちゃった！
ここで、提案、プロデューサー各位、私が愛してやまない向田邦子の
「あ・うん」を二階堂ふみ主演で、
どうですか？
イメージがドンピシャ。
無骨な亭主と、その2枚目の親友の間で、
揺れる妻の役NHKのドラマ版では
吉村実子が演じました。
で、志村喬が演じた亭主のお父さんは、
ぜひ志らくでお願いします！
そうだ、チェ・ジョンヒョブを2枚目の
親友にしてもいい。杉浦直樹が
演じた役。無骨な亭主は中川大志。
フランキー堺の役。ちょっと、
カッコ良すぎるな。3人の不思議な三角関係を
守る娘（岸本加世子）は、
「Eye Love You」でもう1つの
ラブストーリーのヒロイン山下美月。
その彼女が、恋する共産主義の青年
（長島敏行は当然清水尋也）。
『Eye Love You』の「あ・うん」版！
当然、妻は、相手の心が読めちゃう。
だからこそ、亭主の気持ちも親友の気持ちも、
わかってしまうから苦しむ。
三角関係こそ美しい形を描いた現代版
「あ・うん」。ただ、お父様は、しゃべれるように、
してくださいませ...。
備考：この内容は、
令和6-6-20
発行：キネマ旬報
より紹介しました。