連載その11
「映画は顔だ!」
映画イラストレイター・宮崎祐治
「エヴァ・ブシュチンスカ」
作年、ポーランドに移住した
高校時代の同級生が、”妻のクラスメートが
「関心領域」で、アカデミー賞を獲ったぜ”
と、ラインで、その写真を送ってきてくれた。
上のいらすとは、それを描いたもの。
と
言いたいところだが、
残念ながら、ネット検索できませんでした。
満面のその喜びの笑顔を
是非とも、ここに紹介したいと思った。
エヴァ・ブシュチンスカさんは、
ポーランドの映画制作者で、「イーダ」(13)
で、すでにアカデミー賞外国語
映画賞を取っていて、本作で2度目の
受賞になる。
2体のオスカーを掲げて
いるのは、音響賞も同時に獲った
からだろう。彼女は20年以上の
プロデューサー歴があり、ヨーロピアン・
フィルム・アカデミー、英国アカデミー
協会の会員であるそうだ。
「関心領域」は、日常生活のすぐ隣りに
アウシュビッツ収容所があるという
恐い状況を、音という映画では過剰に
なりやすいところを抑えて、逆にその怖さを
観客それぞれに委ねている傑作。
今年のアカデミー賞は「ゴジラー1.0」
の安部秀司さんの写真
と、ブシュチンスカさんの素晴らしい
笑顔で少し身近に感じられた...。
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「アグニエシュカ・ホランド」
「人間の境界」の監督、アグニエシュカ・
ホランドは、ポーランドの巨匠
アンジェイ・ワイダに師事。今やポーランド
映画を代表する監督だ。
最近私も、
彼女と同じような牛乳瓶の底のような
眼鏡をかけるようになってしまって
苦労しているけれど、彼女のメガネは、彼女のかわいい
顔の魅力になっている気がする。
「僕を愛したふたつの国 ヨーロッパ」(90)
「オリヴィエ、オリヴィエ」(92)
「秘密の花園」(93)など、文学を愛するような
図書委員が選ぶような
モチーフを描いてきた。
ディカプリオが詩人のランボーに扮する
「太陽と月に背いて」(95)が
その代表作といえるか?
しかし、新作「人間の境界」では
ベラルーシと、ポーランド国境でシリア人
難民が多くの厳しい●力と●害を
受ける様子が繰り返し描かれる、
ヨーロッパが、というか世界中が、ぎりぎりの
危険な状況にあることがひしひし伝わる。
ホランド監督は、一方でテレビドラマ
「ハウス・オブ・カード 野望の選択」
(13~)を何本か手掛けるなど職人技の
幅も見せているのがすごい。
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「諸鍛冶裕太」
千葉真一が1970年創立した
JAC=ジャパン・アクション・クラブは、
2004年、JAE=ジャパン・アクション・
エンタープライズに改称された。私が、
CMの演出をやっていた頃「ファイト一発」
のアクションを付けてもらった。
諸鍛冶裕太さんは、その中の
アクションディレクター。この世界に入った
きっかけが面白い。16歳のときに、松田聖子の
「野菊の墓」を見に行って。
併映の「燃える勇者」の真田広之の
かっこ良さにしびれ、JASCの試験を
受けたそうだ。
若い頃学んだ東映京都は、●人師に
師弟関係はなかったけれど、「影の軍団」
を担当していた●人師・菅原俊夫さん
から多くの薫陶を受け、「バトル・
ロワイヤル」(00)の深作欣二監督の教えが
ターニングポイントになったという。
「あずみ」(北村龍平・03)や「東京
リベンジャーズ」なども手掛けている。
NETFLIXでヒットした
相撲ドラマ『サンクチュアリ』は、相撲
コーディネーターの方とともに120以上の
「ドラマ性のある取り組み」を構築した。
みんな満身創痍でしたね、と振り返る...。
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「江口のりこ」
「ジョゼと虎と魚たち」(03・犬童一心)
の、学童で妻夫木聡に X X X のマネを
してからかう。やせぎすでショートカットの
江口のりこは 強烈な印象だった。
なぜか、すごく覚えている。
初主演の「月とチェリー」(04・タナダユキ)
のエ■小説家から
「ユリ子のアロマ」(10・吉田浩太)など、
際どくエ■く性格の悪い役柄をたくさんこなし、
坂口安吾原作「戦争と1人の女」(13・井上淳一)では、
所属する劇団東京乾電池の座長、柄本明と、
●▲■するシーンを
こなす頑張りを魅せた。
映画の出演作は、ものすごく多い。
いずれも、居心地の悪そうな脇の存在で、
笑顔は見せず、怒っているかと思うと
そうでもないらしい。そこがいい。
江口のりこが、今の勢いに乗ったのは、
テレビドラマ『半沢直樹』のスーツ姿で
国土交通大臣という難役をこなして
から、茶の間に彼女はググッと、
浸透していった。
「映画は、顔だ!」としては、不愉快そうな
顔で最後まで通し、実はそんなに嫌いでは
なかったんだという微妙な顔で安心
させてくれるのがいいなと、勝手に思う...。
備考:この内容は、
令和6-6-20
発行:キネマ旬報
より紹介しました。