1日中、電車に乗っていると、やることがなくなり、
つい乗り込んでくる乗客に自分の
人生を重ねて、過去を振り返ったり、
未来を想像したりしてしまうのだ。
ずっと、乗ってきた乗り物でもあるし、
この先、環境が変わっても、住居が変わっても、
きっと、電車には乗り続けていくだろう...。
「電車とは人生の縮図のような
ものなのかもしれない」
目的地に近づいて、旅の総まとめに
入ろうと思っていた矢先、急に車内の
電気がパッと消えた。
いきなり視界が真っ暗になる。
「て、停電か...?」と焦ったが、周りの
乗客を見渡すと皆、何食わぬ顔で、
普通に過ごしている。
しばらくしても、暗いまま
アナウンスも一切ない。
「電車とは人生だ!」とそんなことを
思っていたのに、急に電気が途絶えるなんて、しかも
周りの誰も動じないなんて、その異様な
光景にちょっと ゾッとした。
後で、調べてみると、九州では
架線に流れる電気が異なるらしい。その関係で、九州と
本州を結ぶ関門トンネルの電気(交流と直流)
の切り替え点を通過する時には、電車の構造上、
車内の照明が消えるようになっている
というのだ。
この区間のことを「デッド・セクション」
と言うらしい。
その区域の人たちからすると、日常の
ことなので、誰も何も驚かなかったというわけだ。
車内の電気が再びついた時、
息を無意識に止めていたのか、何となく
生き返ったような、そんな気がした。
始まりもあれば終わりもある。
やっぱり、
普通列車の旅は、人生っぽいな。なんて1人で
妄想をしていたら、いつの間にか、九州の
玄関口 福岡県に到着していた。
乗り換えや途中下車も合わせると
約16時間の長旅だった。
退屈な時間も長かったし、座りっぱなしの
疲労感もドッとくる。頭も身体もふらふらで、
お腹も空いた。そりゃいろんな空想を
広げてしてしまうわけだ。
普通電車で人生を辿った旅は、
美味しい博多ラーメンで、シメることにする。
備考:この内容は、
2022-1-26
発行:KADOKAWA
著者:SAORI(高山沙織)
「散歩するアンドロイド」
より紹介しました。