「宇宙人・ポール」
これは、宇宙人の側にとっても同様、
とんでもないものを見て自分なりに判断して
しまう漫画やジョークが、むやみと多い。
落語でいえば、「こんにゃく問答」で、
こういうのを「見立て落ち」という。
地球の近くまでやってきた宇宙人、
地球の宇宙飛行士がカプセルから出てきて遊泳を
やるのを見て、
「おい、あの物体が子供を
出産したぞ」と、びっくり。
地上へ着陸した宇宙人、光線銃を
かまえて「地球人の弱点を話せ。いやだといっても、
絶対におまえの口を割らせてみせるぞ!」
とおどかしている。だが、その相手は
サボテンなのだ。どうやって口を割らせるのか
見ものである。その宇宙人がサボテンに
似た体型であるための勘違い。
チューインガムの自動販売機。
ジュークボックス、ガソリンの給油機のたぐいを
見て、
「あなたのような美人が、
こんなところで、何をしているんです?」
スロットマシンのジャックポットで
貨幣をザラザラ吐き出すのを見て、
「胃が弱いのに、食べすぎちゃったね?」
理髪店の看板を見て
「元気そうだな?
血液の流れが、じつに規則正しいじゃないか!?」
「アバターもえくぼ」
点滅する交通信号を見て、
「こんな星にも、
ウィンクの習慣があるとは?」と喜ぶ宇宙人。
GOとSTOPの出る信号もあるが、
それに向かって、「べっぴんさん、近寄って
いいのか悪いのか、じらさないでくださいよ~」
と、困っている宇宙人。なぜ地球の文字が
読めるのか疑問だが、そんな詮索は、
ヤボというものだ...。
「リリィ・私は泣いています」
水の出る水飲み台に向かって
「どうなさいました? 私は泣いている
女性を放っておけないんです」と言う。
原油を汲み出している石油採掘機に向かっては、
「そんなに、血を流し続けては、
あなた 助かりそうにありませんね?」
「道端3姉妹」
道端の消火栓だの、屋上のテレビ・
アンテナだの、スクーターだのを同類と
思って話しかけるのも多い。パーキング・
メーターの1つに
一目惚れする宇宙人まで
あらわれる。仲間が冷やかし、
「あいつ、並んでいる中の一番美人に熱を
あげやがった!」
「ウォッシュ・ガールズ」
パーキング・メーターを見て
「この星の女も、
やはり時間に応じて金を取るらしい。
どの星も同じだな?」
ピアノのそばに行って、
「遠来の客に向かって
そう歯をむきだすな!」と言ったり、
人間にたたかれていいるドラムに向かって、
「オイ! 大丈夫か?
反抗するなら助けるぜ!」と、
話かけたりである。
「ドクター・フー」
ボックスの中の公衆電話を見れば、
「いい家だね。一晩、泊めてくれよ」となり、
郵便ポストには、
「魅力的な唇だね、キスしたい」。
「ヨーダ」
「アソーカ・タノ」「アクバー提督」
「ジャージャー・ピンクス」「ジャバ・ザ・ハット」
ありとあらゆるものが、宇宙人と同類に
なってしまう。その一時期前のSFでは、
宇宙怪物というと、古典的なタコ型火星人をはじめ、
ナメクジとか、大きなダニとか、
鳥のような人間とか、地球生物の
バリエーションだった。
「C-3POとR2-D2」 「BB-8」
それが、出尽くした時、
誰かが、地球の物品や装置を宇宙人が
文化ある生物と誤解するというアイデアを開発
した。画期的なアイデアである...。
待ってましたという感じ。それに
アメリカ人には、機械に対する仲間意識みたいな
ものがあるのだろう。
「アシモフSF」
そういえば、アシモフのSFに、ロボット
自動車サリィと人間との友情をあつかった作が
あった。それがパロディのような小話もある。
「アイ・ロボット」
他星に出かけた地球の探検隊が、
案内されて見学してまわる。
赤ん坊がオートメーション
工場でつくられ、自動車のごとく
コンベアで続々出てくるのを見て、
ビックリ。
「エイリアン 1の猫」
住民は不思議がって
「地球では、どうやって子供を作っているのですか?」
と、質問。話にくいことだが、これも文化交流のため、
かくかくしかじか、微に入り細をうがって説明し終わると、
住民にっこり笑い
「あっ、それでしたら、ここの星で自動車を生産している
方法です...!」
「宇宙はジョークでいっぱい」
「宇宙ジョーク集」というCitadel Press社発行の
本に載っていたのものだ。
そう厚い本ではなく、内容は私たちには、ピンと来ない
語呂合わせ物が多いが、宇宙小話だけで
一冊にまとまり、それが売れるというのだから
驚異である。この本を読むと、物品
見立て落ちへの、アメリカ人の熱心ぶりが
よくわかる。
「二階建てバスと、超小型EV」
何台もの小型車の先頭を走ってくる
大型バスに向かって、宇宙人が
「かわいいお子さんたちですね?」と
話しかけたり、
トラックから荷物がころがり落ちたのを見て
「奥さん、財布が落ちましたよ」。
こういった手法で、ありとあらゆる
物品や装置を、しらみつぶしにやってしまった
ようである。無理にこじつけた苦し
まぎれのようなのも多い。挙句の果ては、
こんなのも出現する。
やってきた宇宙人が、
マンホールのANAに向かって
「魔法にかけられて」
「おい! その口で
何とか言ったらどうだ?」
ここまでくると、もはや私たちに
進出する余地は残されていないようである。
なんとか作りあげてみるとすれば、
こんなところか?
石ドロボウに向かって宇宙人が
「少しはおしゃれをしたらどうだ!?
全身を緑とピンクで美しく
メーキャップしてやるぜ!」
「ファンタスィック・フォー」
備考:この内容は、
令和3-12-30
発行:新潮社
著者:星新一
「進化した猿たち・The Best」
より紹介しました。